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岡田鯱彦『岡田鯱彦探偵小説選I』(論創ミステリ叢書)
新年一冊目の読了本は、論創ミステリ叢書から『岡田鯱彦探偵小説選I』。
岡田鯱彦といえば、何といっても有名なのは『薫大将と匂の宮』だろう。これまでにも何度か書籍化されているのはみなさまご存知のとおり。しかし、それ以外の作品はあまり知られておらず、2001年に河出文庫から出た『岡田鯱彦名作選 噴火口上の殺人』でようやく、なんとなくではあるが岡田鯱彦の作風が理解できたように思う。
本書はそこからさらに十三年を経て、2014年に刊行された岡田鯱彦の傑作選である。

『赤い頸巻(マフラー)』
『鯱先生物盗り帳』
「クレオパトラの眼」
「不可能犯罪」
「密室の殺人」
「光頭連盟」
「生不動ズボン」
「羅生門の鬼」
「雪達磨と殺人」
「死の脅迫状」
「犯罪の足跡」
「獺(かわうそ)の女」
「天の邪鬼」
「地獄の一瞥」
「獺(かわうそ)峠の殺人」
収録作は以上。中編『赤い頸巻(マフラー)』と連作短篇の『鯱先生物盗り帳』を柱とし、「天の邪鬼」以下の初期短編という構成である。
岡田鯱彦は一応、本格系の作家なのだけれど、犯罪が起こるまでのドラマや人間心理をしっかりと描いているのが特徴だろう。それを支える文章も悪くなく、美文というほどではないが、描写が丹念でしっかりしている。だから本格としての仕掛けなどがいまひとつの作品であっても、小説としてはそれなりに読み応えがあるのが良い。
本書もそういう意味では悪くない一冊で、ガチの本格を期待すると物足りないだろうが、ストーリーや語り含めて楽しめた。
『赤い頸巻(マフラー)』は元公爵一家の財産相続に絡む殺人事件を描いている。本格仕立てではあるが、最初から結末や犯人はぼんやりと明らかにされており、なぜこのような悲劇が起こってしまったのかというサスペンスの方が読みどころだろう。サプライズはいまひとつながら、そこに関しても関係者の心理が錯綜して読ませる。
ただ、ヒロインの元家庭教師で探偵役の男がかなりボンクラというか優柔不断であり、まったく感情移入できるタイプではなく、それだけにヒロインがよけい不憫でならない。この主人公設定だけはもう少しなんとかしてほしかったなぁ。
『鯱先生物盗り帳』は鯱先生の名で知られる怪盗を主人公にした連作短編。いわば和製ルパンであり、“捕物帳”ならず“物盗り帳”というわけである。
語り口もほかの作品と比べるとかなり軽妙で、かつ内容もバラエティーに富み、著者もけっこうノリノリな感じで書いていることが想像できて楽しい。
一作目の「クレオパトラの眼」などは鯱先生初登場作ということもあって、それなりの趣向を凝らし、このシリーズの方向性を宣言しているかのようだ。驚くような作品はないが、ルパン的な楽しさはしっかり味わうことができる。
初期短編三作もそれなりに楽しめたし、これは続刊の『〜II』も近いうちに読まなければ。
岡田鯱彦といえば、何といっても有名なのは『薫大将と匂の宮』だろう。これまでにも何度か書籍化されているのはみなさまご存知のとおり。しかし、それ以外の作品はあまり知られておらず、2001年に河出文庫から出た『岡田鯱彦名作選 噴火口上の殺人』でようやく、なんとなくではあるが岡田鯱彦の作風が理解できたように思う。
本書はそこからさらに十三年を経て、2014年に刊行された岡田鯱彦の傑作選である。

『赤い頸巻(マフラー)』
『鯱先生物盗り帳』
「クレオパトラの眼」
「不可能犯罪」
「密室の殺人」
「光頭連盟」
「生不動ズボン」
「羅生門の鬼」
「雪達磨と殺人」
「死の脅迫状」
「犯罪の足跡」
「獺(かわうそ)の女」
「天の邪鬼」
「地獄の一瞥」
「獺(かわうそ)峠の殺人」
収録作は以上。中編『赤い頸巻(マフラー)』と連作短篇の『鯱先生物盗り帳』を柱とし、「天の邪鬼」以下の初期短編という構成である。
岡田鯱彦は一応、本格系の作家なのだけれど、犯罪が起こるまでのドラマや人間心理をしっかりと描いているのが特徴だろう。それを支える文章も悪くなく、美文というほどではないが、描写が丹念でしっかりしている。だから本格としての仕掛けなどがいまひとつの作品であっても、小説としてはそれなりに読み応えがあるのが良い。
本書もそういう意味では悪くない一冊で、ガチの本格を期待すると物足りないだろうが、ストーリーや語り含めて楽しめた。
『赤い頸巻(マフラー)』は元公爵一家の財産相続に絡む殺人事件を描いている。本格仕立てではあるが、最初から結末や犯人はぼんやりと明らかにされており、なぜこのような悲劇が起こってしまったのかというサスペンスの方が読みどころだろう。サプライズはいまひとつながら、そこに関しても関係者の心理が錯綜して読ませる。
ただ、ヒロインの元家庭教師で探偵役の男がかなりボンクラというか優柔不断であり、まったく感情移入できるタイプではなく、それだけにヒロインがよけい不憫でならない。この主人公設定だけはもう少しなんとかしてほしかったなぁ。
『鯱先生物盗り帳』は鯱先生の名で知られる怪盗を主人公にした連作短編。いわば和製ルパンであり、“捕物帳”ならず“物盗り帳”というわけである。
語り口もほかの作品と比べるとかなり軽妙で、かつ内容もバラエティーに富み、著者もけっこうノリノリな感じで書いていることが想像できて楽しい。
一作目の「クレオパトラの眼」などは鯱先生初登場作ということもあって、それなりの趣向を凝らし、このシリーズの方向性を宣言しているかのようだ。驚くような作品はないが、ルパン的な楽しさはしっかり味わうことができる。
初期短編三作もそれなりに楽しめたし、これは続刊の『〜II』も近いうちに読まなければ。
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