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 昨年、竹書房文庫で新たにスタートした〈異色短篇傑作シリーズ〉の一冊目、山村正夫の『断頭台/疫病』を読む。
 編者・日下三蔵氏の解説によると、〈異色短篇傑作シリーズ〉は早川書房の〈異色作家短篇集〉の日本版を狙ったとのこと。ミステリ、ホラー、SFといったジャンルでは区分しにくい、まさに異色短篇を集めたシリーズで、すでに戸川昌子や生島治郎の傑作選も刊行済みだ。これらのラインナップを見るかぎり、昭和の作家に照準を当てているようで、これは今後が楽しみである。

 断頭台/疫病

 収録作は以下のとおり。かつてカイガイノベルズから刊行された短編集『断頭台』をベースに、さらにいくつかの作品をプラスした構成である。

I部
「断頭台」
「女雛」
「ノスタルジア」
「短剣」
「天使」
「暗い独房

II部
「獅子」
「暴君ネロ」
「疫病」

 ずいぶん前のことではあるが、山村正夫のミステリは長短篇とも何作か読んだことはある。だが当時はそれほど興味を持てなかった。作品数は多いのだが、単純な話、肝心のミステリの質がそれほどではないのである。日本のミステリ界における功績は知っているし、評論家としての力もある人だが、それが実作と比例するとはかぎらないのはよくある話だ。
 ただ、山村作品を読むなら、普通のミステリよりは怪奇幻想系の方がいいというのも聞いていたし、いずれそちらも試そうとは思っていたこともあって、本書はまさにうってつけの一冊であった。

 で、実際に読んでみると、確かにこれは悪くない。
 異色短篇にもいろいろあるが、本書では西洋の歴史に材をとったり、異常心理を扱ったり、SF的な趣向があったりと、なかなか凝った設定の作品が多い。そういった特殊な世界をまずは丁寧に描きつつ、その奥に潜む“理屈では説明できない心理や現象”を丹念に炙り出していく。
 全体的にはトリッキーな感じはなく、あくまで世界観や雰囲気で勝負している印象である。著者の一般的なミステリを読んだときにはあまり感じられなかったコクや深みが、こと本書の作品に関しては想像以上であり、今更ながら山村正夫を見直した次第である。

 以下、作品ごとの簡単なコメントを。
 表題作の「断頭台」は、芝居で死刑執行人の役を得た役者の物語。ようやく手にした役に主人公はのめり込んでしまい、いつしか現実と虚構の区別が曖昧になり……という一作で、ミステリともSFとも怪奇幻想小説ともいえる。
 演技にのめり込む主人公の描写がキモだろうと思っていると、後半に入って思いがけない展開を見せて驚かされる。ただし、その時点でラストが予想できてしまうのが惜しい。

 「女雛」は同性心中事件の謎を追うミステリ。小さな半農半漁の村で、かつて網本の跡取り息子と旅芝居一座の女形が心中するという事件があった。興味を持った地元新聞社のある記者が取材を始めたが、誰もが曖昧な言葉しか返さない。小さな田舎での同性愛心中事件とあって、それも無理ないことかと思われたが……。
 これは純粋なミステリだが、意外な動機で独特の味わいを持たせている。ただ、跡取り息子の特殊な性癖を読者に納得させるには少々描写不足の感あり。着想はよいが著者自身が健全すぎて、異常性を追及できていない嫌いはある。

 「ノスタルジア」はメキシコのマヤ文明に題材をとった幻想ミステリ。ヒッピー的な生活を送る主人公が、山中深くの別荘へ食料を盗みに入ったが、陳列してあった古代マヤ文明の笛とナイフに心を奪われ……。
 結構やアイデアが「断頭台」と似ており、世界史シリーズとでも言いたくなるような作品群だ。ただ、本作の方が「断頭台」よりは現実と虚構のブレンド具合が激しく、ここまで来ると味わいよりはストーリーの方が強くなってしまい、好みが分かれるところだろう。
 
 「短剣」は恋人と無理心中を図った若者が主人公。母親の仇を討つことだけを目標に生きる若者は、似たような境遇の少女と出会い、恋人同士になる。だが、仇の男が刑務所で死亡したことを知り、二人の間に亀裂が入る……。
 若者がなぜ無理心中を図ったのかという興味で引っ張り、他の作品のような異常心理や幻想的な味つけはほぼない。むしろ若者の屈折した心情をリアルに描いたクライムノベルのようでもあり、ちょっとフランスミステリっぽい味もある。

 「天使」は質量ともに本書中でもかなり読みごたえのある佳作。戦後、黒人米兵と日本人売春婦の間に生まれた混血の孤児を集め、キリスト教系の孤児院を立ち上げた若き女性院長がいた。崇高な理想を掲げ、人生すべてを投げ打って世のために尽くしていた。しかし、ある日のこと、そんな天使のような女性が殺害されてしまう……。
 院長の美しすぎる心が、逆に周囲へのプレッシャーとなり、それが悲劇を招く。純粋なミステリだが、ラストで匂わされる真相はそこらの怪奇小説よりも怖い。ミステリとしてはそこまでロジカルではないし、読後、ブルーになることは必至だが、これは必読レベルといってよいだろう。
 内容が内容だけに、よくこれが復刊できたなぁと、実はそれに一番驚いた。

 「暗い独房」も悪くない。取調室を舞台に、少年が殺人をなぜ犯すに至ったかを追っていく物語。1960年代の作品だが、むしろ今のほうが理解しやすいかもしれない。

 第II部は古代歴史物でまとめられた作品が並ぶが、これがまた粒揃いである。
 「獅子」は古代ローマ帝国を舞台にしたミステリ。「断頭台」や「ノスタルジア」のような幻想的な作品ではなく、舞台設定が古代ローマというだけで、それ以外は実に真っ当な本格ミステリである。もちろん、その特殊な設定は十分に活かされ、古代史ミステリの傑作といってよい。

 「暴君ネロ」は、暴君として知られるローマ皇帝ネロの、キリスト教徒への迫害を描く……と書くと何とも普通の歴史小説にしか思えないが、その手段が……。

 ラストはギリシャ神話に材をとった「疫病」。美と愛の女神アフロディーテから彼女の石像を作るよう命じられた彫刻家が、キューピットの矢に当たってしまい、娼婦に恋をしたところから話がおかしくなり……。

 「獅子」があくまでミステリとしての面白さなのに比べ、 「暴君ネロ」と「疫病」は着想の妙が光る。山村正夫がこういう話も書いていたのかという驚きもあり、完成度なら「獅子」だが、印象に強く残るという意味ではあとの二作がおすすめ。

 ということで惜しい作品もややあるけれども、全体的には満足の一冊。とりあえず山村作品に対する見方をもう少し変える必要があることを気づかせてくれただけでも大収穫であった。


テーマ:推理小説・ミステリー - ジャンル:本・雑誌




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