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探偵小説三昧

天気がいいから今日は探偵小説でも読もうーーある中年編集者が日々探偵小説を読みまくり、その感想を書き散らかすページ。

 

ジョン・バッカン『まほうのつえ』(湘南探偵倶楽部)

 ジョン・バッカン『まほうのつえ』を読む。児童誌『たのしい三年生』昭和三十二年三月号の付録として付いてきた小冊子「まほうのつえ」を湘南探偵倶楽部が復刊したもの。ジョン・バッカンはもちろん『三十九階段』を書いたジョン・バカンのことである。
 ジョン・バカンといえば、日本ではほぼ『三十九階段』のみで知られる作家だが、本国では冒険小説から歴史小説、スリラーなどのエンタメ系から伝記・歴史書などのノンフィクションも含め、なんと六十作以上の作品を残している。それでいて本業はむしろ政治家や実業家の方であったというのだから、いや、才人としか言いようがない。

 それはともかく。こんな話。
 ロンドン郊外に住むビル少年は、ある日、召使いのトマス爺やに連れられて鴨撃ちに出かける。その途中、道端に佇む老人から一円で小さな杖を買うのだが、その杖は行きたい場所を念じながら回すことで、その場所へ一瞬で移動できる不思議な杖だったのだ……。

 まほうのつえ

 子供向けの小説としては、非常によくできたお話。すごい能力を手に入れた少年が、その能力を使って人助けをするようになる。やがて外国の大きな陰謀を解決する活躍も見せるが、いつしか少年は慢心するようになり、最後は意外な事件が起こって少年も悔い改めるという一席。
 よくある筋立てではあるが、教育的な配慮と物語の面白さが上手く融合しており、ボリューム感も長すぎず淡白すぎず、オチも効いていてちょうどいい楽しさ。1932年の作品としては立派なものである。『三十九階段』なんかもそうだが、あまり細かい整合性などは気にしないで、全体のテイストやユーモアを楽しむ一冊だろう。

 ちょっと調べてみると、本作はもともと講談社から1951年に刊行された『魔法のつえ』が元版のようだ。それが1957年に『たのしい三年生』の雑誌付録『まほうのつえ』として掲載され、今回読んだ湘南探偵倶楽部版はその『まほうのつえ』の復刻である。もしかすると『たのしい三年生』向けにリライトされている可能性もあるかもしれないが、元版が手元にないのでなんともいえない。
 ちなみに講談社版は2013年に復刊ドットコムで復刻されているが、さらに調べてみて面白かったのは、本書はあの藤子不二雄の両氏が子供の頃に読んで夢中になり、自身のルーツであると認めていること(復刊ドットコムでの復刻もそれがフックとなっている)。そういえばドラえもんの「どこでもドア」も、魔法のつえみたいなものだし、藤子不二雄とジョン・バカンの関係性がわかったのは思わぬ収穫であった。
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プロフィール

sugata

Author:sugata
ミステリならなんでも好物。特に翻訳ミステリと国内外問わずクラシック全般。
四半世紀勤めていた書籍・WEB等の制作会社を辞め、2021年よりフリーランスの編集者&ライターとしてぼちぼち活動中。

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