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 ハリー・カーマイケルの『アリバイ』を読む。なんとも潔いタイトルだが、著者はこれまで翻訳された『リモート・コントロール』『ラスキン・テラスの亡霊』でもその力を発揮してくれているので、その著者が真っ向からアリバイ崩しに挑む本作も、それなりにハードルを上げて読んでみた。

 アリバイ

 まずはストーリー。深夜、車で帰宅途中の弁護士ヘイルは、夜道で足を挫いたという女性パトリシアを見つけ、コテージまで送ってゆく。パトリシアは数ヶ月前にやってきた小説家だが、ヘイルのことは前から気になる存在だったと話し、露骨に誘いをかけてくる。ところがコテージに着こうかという頃、彼女は先程の場所に靴とバッグを忘れてきたという。仕方なくいったん靴とバッグを取りに戻り、コテージへ引き返してきたヘイルは、彼女が待っているコテージへ入っていった……。
 一方、保険調査員ジョン・パイパーはワトキンという男から妻を探してほしいという依頼を受ける。パイパーが調査を始めると、パトリシアがワトキンの妻であることが明らかになり、やがて彼女の死体をコテージ近くで発見する。

 おお、これはなかなか。
 アリバイをテーマにするミステリには一つ不利な点があって、それは犯人探しの興味が減ってしまうことだ。言ってみれば倒叙に近いところがあって、つまり犯人との知恵比べに終始してしまうのである。コロンボの例を出すまでもなく、それはそれで別の面白さがあるのだが、本作ではヘイルの序盤の行動が明確に描写されてはいないため、それがけっこう犯人探しの伏線みたいにも受け止められてしまうし、その一方で容疑者筆頭たる夫ワトキンとの知恵比べもコロンボほどストレートに描かれるわけではない。
 そんな、一見すると消化不良な展開にも思えるネタなのだが、これがなかなか尻尾を見せない。そこまで複雑そうには思えない事件なのに、アリバイ、動機、さまざまな情報を錯綜させ、読者を煙に巻く著者の手口はなかなか小憎らしく、終わってみれば「そうきたか」と思わず膝を打つメイントリックもお見事。楽しいねえ、こういうの。
 雰囲気はけっこう軽ハードボイルドチックで現代的なのだけれど、その本質はしっかり本格志向というのも悪くないし、ぜひ今後も翻訳していただきたい作家である。

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テーマ:推理小説・ミステリー - ジャンル:本・雑誌




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