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M・G・エバハート『暗い階段』(湘南探偵倶楽部)
M・G・エバハートの『暗い階段』を読む。かつて六興キャンドル・ミステリーズの一冊として刊行されたものの復刻版である。
この六興キャンドル・ミステリーズというのがキモで、全十三巻とそれほど多くはないのだが、なかなか渋いラインナップとこれでしか読めないものが多かったことから、古書やオークションで滅法高く取引される叢書である。
今ではかなり文庫化されたりして手軽に読めるものも増えたが、それでもオークション等で一冊数万円の値がついたりするから恐ろしい。古書で全集などの揃いものを集める際、特に入手が難しいものを“キキメ”というけれど、これはシリーズ全作がキキメみたいなものである。
本作もかつてはキキメ中のキキメであったのだが、湘南探偵倶楽部より復刊されてようやく手軽に読めるようになったわけである。当時の六興キャンドル・ミステリーズの装丁なども再現しており、これはこれで嬉しいところではあるのだが、権利関係などがちょっと心配になってしまった。

さて、本作はアメリカのいわゆる“HIBK派”を代表する作家の一人、ミニオン・G・エバハートによるサスペンス小説である。まずはストーリー。
看護婦セアラ・キートは勤務するメラディー記念病院で三階東廊下の病棟の婦長の職務に就いていた。ここは経済的に裕福な患者が多いけれど、そのせいで手がかかる患者が多いことでも知られていた。実際、現在も病院の理事長にしてメラディー製薬会社の社長も兼務するピーターが心臓病で、ピーターの娘ダイオネが太陽熱で、ピーターと対立する医師ハリガンの夫人イーナが交通事故で入院している始末。
案の定、ハリガン医師がピーターを手術する予定だったのに、ダイオネが強く反対するという事態が勃発。しかし、その夜、なぜかハリガンは急遽、ピーターを手術することになったといい、それを聞いたセアラは慌てて二人を探すが、なぜか見つからない。挙句にセアラはハリガンの死体をエレベーターで発見し、しかもピーターはその後も行方不明に……。
個人的にHIBK派は苦手だけれども、これまで読んだエバハートの作品に関しては例外で、比較的面白く読ませてもらった。これは結局エバハートの小説が上手いからで、HIBK派によく見られるご都合主義や後出しジャンケン、感情だけで行動する登場人物たち、思わせぶりな描写の大安売りといったマイナス面が、ある程度クリアされているからだろう。
ただ、本作に関してはこれまで見せてくれた技術の高さがあまり感じられない。書かれた時期が初期ということもあるのだろうか、地の文での煽りは仰々しいし、重要な手がかりの後出しなども多く、典型的な悪しきHIBK派のイメージ。
主人公のセアラにしても、物語の中では数少ない冷静で知的なタイプなのだが、推理の際には単なる好き嫌いレベルで容疑者を選んだり、見つけた証拠品を勝手に隠したり、無茶な行動も少なくない。それらの行動に根拠があれば別にかまわないけれども、流れでサラッとやられると、「何でもありか」という気分で白けてしまうのである。
結末の鮮やかさ(ただし前例あり)は評価したいところだが、残念ながらトータルではマイナス部分の方が勝ってしまった。
とまあ内容的にはいまひとつだったけれど、幻の作品は得てしてこういうものである。むしろ、これまで手を出せなかった本作がようやく読め、感想をこうして書けるだけで満足である。
この六興キャンドル・ミステリーズというのがキモで、全十三巻とそれほど多くはないのだが、なかなか渋いラインナップとこれでしか読めないものが多かったことから、古書やオークションで滅法高く取引される叢書である。
今ではかなり文庫化されたりして手軽に読めるものも増えたが、それでもオークション等で一冊数万円の値がついたりするから恐ろしい。古書で全集などの揃いものを集める際、特に入手が難しいものを“キキメ”というけれど、これはシリーズ全作がキキメみたいなものである。
本作もかつてはキキメ中のキキメであったのだが、湘南探偵倶楽部より復刊されてようやく手軽に読めるようになったわけである。当時の六興キャンドル・ミステリーズの装丁なども再現しており、これはこれで嬉しいところではあるのだが、権利関係などがちょっと心配になってしまった。

さて、本作はアメリカのいわゆる“HIBK派”を代表する作家の一人、ミニオン・G・エバハートによるサスペンス小説である。まずはストーリー。
看護婦セアラ・キートは勤務するメラディー記念病院で三階東廊下の病棟の婦長の職務に就いていた。ここは経済的に裕福な患者が多いけれど、そのせいで手がかかる患者が多いことでも知られていた。実際、現在も病院の理事長にしてメラディー製薬会社の社長も兼務するピーターが心臓病で、ピーターの娘ダイオネが太陽熱で、ピーターと対立する医師ハリガンの夫人イーナが交通事故で入院している始末。
案の定、ハリガン医師がピーターを手術する予定だったのに、ダイオネが強く反対するという事態が勃発。しかし、その夜、なぜかハリガンは急遽、ピーターを手術することになったといい、それを聞いたセアラは慌てて二人を探すが、なぜか見つからない。挙句にセアラはハリガンの死体をエレベーターで発見し、しかもピーターはその後も行方不明に……。
個人的にHIBK派は苦手だけれども、これまで読んだエバハートの作品に関しては例外で、比較的面白く読ませてもらった。これは結局エバハートの小説が上手いからで、HIBK派によく見られるご都合主義や後出しジャンケン、感情だけで行動する登場人物たち、思わせぶりな描写の大安売りといったマイナス面が、ある程度クリアされているからだろう。
ただ、本作に関してはこれまで見せてくれた技術の高さがあまり感じられない。書かれた時期が初期ということもあるのだろうか、地の文での煽りは仰々しいし、重要な手がかりの後出しなども多く、典型的な悪しきHIBK派のイメージ。
主人公のセアラにしても、物語の中では数少ない冷静で知的なタイプなのだが、推理の際には単なる好き嫌いレベルで容疑者を選んだり、見つけた証拠品を勝手に隠したり、無茶な行動も少なくない。それらの行動に根拠があれば別にかまわないけれども、流れでサラッとやられると、「何でもありか」という気分で白けてしまうのである。
結末の鮮やかさ(ただし前例あり)は評価したいところだが、残念ながらトータルではマイナス部分の方が勝ってしまった。
とまあ内容的にはいまひとつだったけれど、幻の作品は得てしてこういうものである。むしろ、これまで手を出せなかった本作がようやく読め、感想をこうして書けるだけで満足である。
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Comments
Edit
エバハートは好きです。
ある意味安心して読めるから
「キャンドル叢書」は、ものすごーーーく読むのが大変で
図書館の相互貸借でも×だったりして、
挫折した思い出が・・・・
今は、コロナで(出社制限)図書館の利用もなかなか大変で、
通勤していないと本を読む時間がない・・・という状態です。
Posted at 20:00 on 03 08, 2021 by fontanka
fontankaさん
以前もエバハートでコメントいただきましたよね。私はそこまで推しの作家ではないですが、これまで読んだHIBK派の中では一番いいと思います。実際、『嵐の館』、『スーザン・デアの事件簿』、『死を呼ぶスカーフ』あたりはどれも楽しめました。
>通勤していないと本を読む時間がない・・・という状態です。
これはまったく同感ですが、私は先月から環境が変わって、結局、読書量はプラマイゼロって感じです(笑)。
Posted at 21:16 on 03 08, 2021 by sugata