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レオ・ブルース『冷血の死』(ROM叢書)
レオ・ブルースの『冷血の死』を読む。近年はずいぶん古い作家の紹介も進んできたが、ブレイクしそうでしないのがレオ・ブルース。それでもひと頃は扶桑社ミステリーや創元推理文庫でぼちぼち新刊が続いて出るようになったので、ようやく軌道に乗ったのかと思っていたら、本作はまたまた同人師〈ROM叢書〉での発売となった。
もちろん同人が悪いわけではないけれど、こんなに面白い作家なのに、なんで普通に売れないのかなという疑問がずっとある。なかなか上手くいかないものだなぁ、と思っていたら、本書の発売後すぐに扶桑社ミステリーで新刊が発売されたりして、いや、同人と商業出版でほぼ同時に発売される作家てなんなん? 本当にレオ・ブルースの人気はよくわからない。
こんな話。オールドヘイブンの町長ウィラルが失踪し、その後、溺死体で発見された。最後に目撃されたときには桟橋で釣りを楽しんでおり、おまけに孫が生まれるという日でもあったため、とても自殺とは思えない。警察ではあっさり事故で片付けられることになったが、ウィラルの娘夫婦としては、ウィラルが事故に遭うというのもいまひとつ納得がいかない。そこでたまたまオールドヘイブンにきていた休暇中のキャロラス・ディーンに調査を依頼するが……。

本作は『死の扉』に続く歴史教師キャロラス・ディーンものの第二作である。基本的には『死の扉』のスタイルをほぼ踏襲しており、キャロラスが事件関係者に聞き込みしていく様が、ほとんど全編にわたって描かれる。まあ、キャロラス・ディーンものはそもそもこのパターンばかりなんだが、それでも終盤になって第二の事件が発生し、そこからの動きはけっこうハッタリも効いていて盛り上がる。
もちろんブルースのファンであれば、一見、退屈と思われる聞き込みの場面こそ楽しめるところではある。数々の伏線が散りばめられ、そこから手がかりを見つけ出す楽しさもあれば、キャロラスと町の人々とのユーモラスなやりとりもそう。ストーリー同様、それらも派手さはないのだけれど、読めば読むほど味わいがあるのだ。
個人的に本作で気に入ったのは、町の人気者だと思われていた町長ウィラルに対し、意外に恨みや殺害動機を持つ者が徐々に判明していくところか。通常のミステリのパターンだと、被害者の思わぬ二面性が明らかになって人間の怖さみたいなものを浮き彫りにするところだが、レオ・ブルースは違う。町の人気者として登場させておきながら、そこから「実は人気者の正体なんてこんなものさ」と落とす意地悪さの方が強いのだ(笑)。
ミステリに対して斜に構えたところがあるのは著者の大きな特徴だと思うが、それはこういう人物の見方においても表れており、それが全体からじわっと滲み出て、それがまた味わいにつながるのである。
謎解きの部分に目をやると(ネタバレ防止のため、やや曖昧な書き方になるけれど)、解説でも触れられているとおり、ちょっとした疵があるのが惜しい。また、多くの関係者の人物像を浮き彫りにしているにもかかわらず、肝心のところで描写が浅い部分があるのも残念。その結果、著者のその他の代表作よりはやや落ちるという印象ではあるが、それでも意外な真相含め、謎解きミステリとしては十分に楽しめるし、年末ベストテンに入っていてもおかしくはないレベルなのである。
とにかく、こういう作品が同人でしか読めないという状況は悲しいとしか言いようがない。なんとか創元や扶桑社に打破してもらいたいものだ。
もちろん同人が悪いわけではないけれど、こんなに面白い作家なのに、なんで普通に売れないのかなという疑問がずっとある。なかなか上手くいかないものだなぁ、と思っていたら、本書の発売後すぐに扶桑社ミステリーで新刊が発売されたりして、いや、同人と商業出版でほぼ同時に発売される作家てなんなん? 本当にレオ・ブルースの人気はよくわからない。
こんな話。オールドヘイブンの町長ウィラルが失踪し、その後、溺死体で発見された。最後に目撃されたときには桟橋で釣りを楽しんでおり、おまけに孫が生まれるという日でもあったため、とても自殺とは思えない。警察ではあっさり事故で片付けられることになったが、ウィラルの娘夫婦としては、ウィラルが事故に遭うというのもいまひとつ納得がいかない。そこでたまたまオールドヘイブンにきていた休暇中のキャロラス・ディーンに調査を依頼するが……。

本作は『死の扉』に続く歴史教師キャロラス・ディーンものの第二作である。基本的には『死の扉』のスタイルをほぼ踏襲しており、キャロラスが事件関係者に聞き込みしていく様が、ほとんど全編にわたって描かれる。まあ、キャロラス・ディーンものはそもそもこのパターンばかりなんだが、それでも終盤になって第二の事件が発生し、そこからの動きはけっこうハッタリも効いていて盛り上がる。
もちろんブルースのファンであれば、一見、退屈と思われる聞き込みの場面こそ楽しめるところではある。数々の伏線が散りばめられ、そこから手がかりを見つけ出す楽しさもあれば、キャロラスと町の人々とのユーモラスなやりとりもそう。ストーリー同様、それらも派手さはないのだけれど、読めば読むほど味わいがあるのだ。
個人的に本作で気に入ったのは、町の人気者だと思われていた町長ウィラルに対し、意外に恨みや殺害動機を持つ者が徐々に判明していくところか。通常のミステリのパターンだと、被害者の思わぬ二面性が明らかになって人間の怖さみたいなものを浮き彫りにするところだが、レオ・ブルースは違う。町の人気者として登場させておきながら、そこから「実は人気者の正体なんてこんなものさ」と落とす意地悪さの方が強いのだ(笑)。
ミステリに対して斜に構えたところがあるのは著者の大きな特徴だと思うが、それはこういう人物の見方においても表れており、それが全体からじわっと滲み出て、それがまた味わいにつながるのである。
謎解きの部分に目をやると(ネタバレ防止のため、やや曖昧な書き方になるけれど)、解説でも触れられているとおり、ちょっとした疵があるのが惜しい。また、多くの関係者の人物像を浮き彫りにしているにもかかわらず、肝心のところで描写が浅い部分があるのも残念。その結果、著者のその他の代表作よりはやや落ちるという印象ではあるが、それでも意外な真相含め、謎解きミステリとしては十分に楽しめるし、年末ベストテンに入っていてもおかしくはないレベルなのである。
とにかく、こういう作品が同人でしか読めないという状況は悲しいとしか言いようがない。なんとか創元や扶桑社に打破してもらいたいものだ。
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