- Date: Tue 27 04 2021
- Category: 国内作家 井上靖
- Community: テーマ "推理小説・ミステリー" ジャンル "本・雑誌"
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井上靖『井上靖 未発表初期短篇集』(七月社)
『井上靖 未発表初期短篇集』を読む。井上靖がデビュー前に書いていた習作二十二篇が井上家から発見され、そのなかから小説六篇、戯曲一篇をまとめたのが本書である。文学的にはなかなかのビッグニュースなのだが、あいにく井上靖は中学生の頃に『あすなろ物語』を読んだぐらいで、そこまで興味はない。
そんなダメ読者が、なぜ『井上靖 未発表初期短篇集』という少々マニアックなものをわざわざ読んだかというと、なんと中に探偵小説が含まれているからであります。

I ユーモア小説
「昇給綺譚」
「就職圏外」
II 探偵小説
「復讐」
「黒い流れ」
「白薔薇は語る」
III 時代小説
「文永日本」
IV 戯曲
「夜霧」
収録作は以上。デビュー前の習作とはいえ、この筆力はさすがである。探偵小説目当てで読んだものの、ユーモア小説も含め、当時の『新青年』や『宝石』等に載っていても違和感がないぐらいのレベルで非常に楽しく読めた。文章は非常に軽やかで、物語の膨らませ方もうまい。
男女の恋愛を描いた戯曲「夜霧」に至っては習作というようなレベルを超えていて驚いたが、どうやら本作だけは未発表というだけで、他の小説より十年ほど後に書かれたものらしく、少し安心した(苦笑)。
探偵小説のみ紹介しておこう。
「復讐」は浮気された男が妻の不倫相手に復讐するという話で、その復讐方法が猟奇趣味に溢れ、まさに乱歩顔負けの一作。まさか井上靖がこんなものを書いていたとはという驚きしかないが、その後の作風を考えると、井上靖の趣味というよりは、当時人気のあった乱歩の作風にチャレンジしてみたというようなことではないだろうか。
「黒い流れ」は飛行機トリックを使った犯罪を描くが、面白いのは犯罪が成功してから二転三転する構成である。「復讐」もそうだが、痴情のもつれに対しては意外と冷めた感じなのが興味深い。
しかし、もっと興味深いのは「白薔薇は語る」である。本作は登場人物や設定こそ変えてはいるが、「黒い流れ」とトリックや事件の構図がほぼ同じなのである。さらに後のデビュー作品にも通じる部分は大きいらしく、井上靖は題材を何度も書き直し、推敲を重ねていたことがわかる。こういう創作の秘密を垣間見れる著作というのも珍しいし、本書はそういう意味でも探偵小説ファンにお勧めしておきたい。
そんなダメ読者が、なぜ『井上靖 未発表初期短篇集』という少々マニアックなものをわざわざ読んだかというと、なんと中に探偵小説が含まれているからであります。

I ユーモア小説
「昇給綺譚」
「就職圏外」
II 探偵小説
「復讐」
「黒い流れ」
「白薔薇は語る」
III 時代小説
「文永日本」
IV 戯曲
「夜霧」
収録作は以上。デビュー前の習作とはいえ、この筆力はさすがである。探偵小説目当てで読んだものの、ユーモア小説も含め、当時の『新青年』や『宝石』等に載っていても違和感がないぐらいのレベルで非常に楽しく読めた。文章は非常に軽やかで、物語の膨らませ方もうまい。
男女の恋愛を描いた戯曲「夜霧」に至っては習作というようなレベルを超えていて驚いたが、どうやら本作だけは未発表というだけで、他の小説より十年ほど後に書かれたものらしく、少し安心した(苦笑)。
探偵小説のみ紹介しておこう。
「復讐」は浮気された男が妻の不倫相手に復讐するという話で、その復讐方法が猟奇趣味に溢れ、まさに乱歩顔負けの一作。まさか井上靖がこんなものを書いていたとはという驚きしかないが、その後の作風を考えると、井上靖の趣味というよりは、当時人気のあった乱歩の作風にチャレンジしてみたというようなことではないだろうか。
「黒い流れ」は飛行機トリックを使った犯罪を描くが、面白いのは犯罪が成功してから二転三転する構成である。「復讐」もそうだが、痴情のもつれに対しては意外と冷めた感じなのが興味深い。
しかし、もっと興味深いのは「白薔薇は語る」である。本作は登場人物や設定こそ変えてはいるが、「黒い流れ」とトリックや事件の構図がほぼ同じなのである。さらに後のデビュー作品にも通じる部分は大きいらしく、井上靖は題材を何度も書き直し、推敲を重ねていたことがわかる。こういう創作の秘密を垣間見れる著作というのも珍しいし、本書はそういう意味でも探偵小説ファンにお勧めしておきたい。
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私も初耳でした。『本陣殺人事件』の動機に関する部分は、普通に文学、漫画、映画等に親しんでいるだけで、こういう時代があったことは学べるはずですがねえ。それでは『本陣〜』の価値も半減してしまいます。
>自分自身にしか意味がない理由で人が殺せるんだ」と妙な感動を覚えたことを思い出しますなあ。
犯人にとっては、自分自身だけの問題ではなかったのですよね。私はそこに犯人の闇を感じて怖くなりました。