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 ゴールデンウィークのような連休、ましてやコロナ禍ともなると、普段は読みにくい厚手の本を消化しようと考えてしまう。そういえば『ソーンダイク博士短篇全集』のII巻、III巻がまだ手付かずだったなと思ったが、II巻に収録されている中篇「ニュー・イン三十一番地」には改稿された長篇版もあって、これが論創海外ミステリから『ニュー・イン三十一番の謎』として刊行されている。
 発表順なら中篇が先だが、個人的にネタが割れてから長いものを読むのは嫌だったので、先に長篇版『ニュー・イン三十一番の謎』から片付けることにした。

 まずはストーリー。代診医として糊口をしのいでいるジャーヴィス。その日の診療もそろそろ終わりという頃、一人の男が主人の手紙を携えて現れた。その手紙によると、自宅に滞在中の友人の容態が良くないということで往診してほしいという。ただし、具体的な名前や住所は聞かないという、奇妙な条件をつけて。
 腑に落ちないジャーヴィスだが、医者の使命を優先し、馬車で迎えにきた男に連れられて往診に向かう。患者を診たジャーヴィスは重度の薬物中毒と判断するが、薬物の存在を否定する友人に対し、ジャーヴィスも自信がもてない。
 判断に迷うジャーヴィスはソーンダイク博士に相談しようとするが、時を同じくしてソーンダイク博士の元には、遺言書にまつわるトラブルを相談すべく依頼人が現れて……。

 ニュー・イン三十一番の謎

 本作は『赤い拇指紋』、『オシリスの眼』に継ぐソーンダイク博士ものの長篇第三作。もともと物語性よりもロジックに比重を置く作風ではあるが、本作は初期作品ということもあってか、とりわけストーリーの盛り上げに難点を感じる。
 ジャーヴィスが事件に巻き込まれる導入はサスペンスを高めるし、これに遺言書の事件がどう絡むかということで、骨格としては悪くないのである。しかし、二つの事件の関係がかなり予想しやすいということも影響してか、ストーリーの伸びはいまひとつ。
 特にジャーヴィスは、狂言回しであるのは理解できるけれど、あまりに推理力がお粗末に描かれており(おそらく読者よりもかなり落ちる)、それが物語のテンポをより悪くしている。

 とはいえオースティン・フリーマンの作品にストーリー性を求める方が間違いであるのも事実(極論ですが)。楽しむべきは、推理がどのようにロジカルに展開していくかである。そういう意味では大きな疵もなく、むしろ非常にしっかりした構成で、ラストの謎解きも見事。クラシックミステリの味わいは十分楽しめる作品だ。

 ちなみに本作はソーンダイク博士ものの長篇第三作ではあるが、ストーリーとしては『赤い拇指紋』と『オシリスの眼』の間にくる事件のようだ。『赤い拇指紋』で出会ったソーンダイク博士とジャーヴィスが、どのようにコンビを結成するに至ったか、本作ではその様子が随所に描かれていて興味深い。ジャーヴィスに対してソーンダイク博士が意外なほど世話を焼いているのが微笑ましい。これで萌える人もいるんだろうなぁ。

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テーマ:推理小説・ミステリー - ジャンル:本・雑誌




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