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 『芥川龍之介 幻想ミステリ傑作集 魔術』を読む。タイトルのまんま、芥川龍之介の幻想小説やミステリ系の作品を集めた短編集。
 幻想小説やミステリは一応ジャンル小説とはいえ意外に間口が広い。どんなジャンルの作家でも作中にそれらの要素を取り入れることは少なくない。最近の作家であればジャンル横断は当たり前。むしろ取り入れない作家のほうが少ないのではないか。これはエンタメ作家に限ったことではなく、純文学系の作家でも同様だ。
 それは別に不思議なことでもなんでもなく、純文学こそ本来何でもありの世界。新たな潮流、面白そうなジャンルがあれば、芸術家として試してみたくなるのは当然のことであろう。芥川龍之介も特にそういう傾向が強い作家の一人である。

 芥川龍之介 幻想ミステリ傑作集 魔術

「二つの手紙」
「開化の殺人」
「疑惑」
「魔術」
「沼」
「影」
「早春」
「鴉片」
「彼」
「蜃気楼」
「春の夜は」
「三つの窓」
「死後」
「十本の針(遺稿)」
「饒舌」
「猿蟹合戦」
「桃太郎」
「酒虫」
「さまよえる猶太人」
「るしへる」
「黄梁夢」
「仙人」
「おしの」
「女仙」
「浅草公園 ―或るシナリオ」

 収録作は以上。ミステリ系や幻想系の小説を集めた作品集とはいえ、芥川龍之介の好みはほぼ幻想小説寄りである。まあ、この時代にはミステリ自体がまだ日本に確立してないので、当然といえば当然だが。
 しかし、そんな身も蓋もない理由だけでなく、芥川龍之介には知識や理屈では通用しない何かに対し、常に関心を持ち続けていたところはあって、それが作品に大きく反映されているのだろう。死後の世界やドッペルゲンガーといった直裁的なテーマのときもあるが、ほとんどは暮らしの中でふと感じる異様な瞬間を切り取っているのも興味深い。
 心理小説といってもよいのかもしれない。短い作品が多く、ストーリーとしてはそこまで大したものではない。文章も比較的平易。けれども、小さなエピソードを通して起こる主人公の心の揺らぎ、それによって醜さやエゴといった内面の垣間見える瞬間が絶妙で、それが読者に“恐怖”や“蟠り”を植え付けてくれるのだ。
 その一方で古典や説話をモチーフにしたものも多く、こちらは風刺を効かせたりユーモラスだったりと、アプローチこそ異なるのだが、やはり求めるところは人間の内面である。ただ、結果的に寓話のような形になるため、教訓臭がやや強くなる感じを受ける。

 そんな中で気に入ったのは、本書でもっともミステリ的な「開化の殺人」、皮肉の効いた「魔術」、ドッペルゲンガーへの恐れを描いた「影」、海軍機関学校の経験が生きる「三つの窓」あたり。とりあえず挙げたけれど、他の作品もそこまで差があるわけではなく、全編通して芥川龍之介の語りを楽しめる。

 ちなみに同様の趣向で編纂された芥川龍之介の本は意外にあって、本書以外に河出文庫『文豪ミステリ傑作選 芥川龍之介集』、学研M文庫『伝奇の匣3 芥川龍之介妖怪文学館』、ちくま文庫『文豪怪談傑作選 芥川龍之介集 妖婆』がある。さすがに収録作はけっこう重複してしまうけれど、本書以外は文庫なので手軽なのが魅力。本書のみハードカバーで値段は張るが、想定の美しさや活字の大きさもあって、これはこれで悪くない。文庫にはすでに入手難のものもあるし、お好みでどうぞ。

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テーマ:幻想文学 - ジャンル:本・雑誌





SIGERUさん

>調べたら、『開化の殺人』が掲載された文芸誌は「芸術的探偵小説特集」を組んだのですね。

そうなんですよね。のちには探偵小説誌が純文学作家に原稿をお願いする動きもでてきましたが、この時代はむしろ純文学作家の側から探偵小説に対してアプローチを試みていたんですよね。
といっても「新青年」すら出ていない時期ですから、まだ専門知識をもった人は限られていたでしょうし、なかなかムーブメントにまでは育たなかったのでしょうね。
【2021/05/11 09:11】 URL | sugata #8Y4d93Uo[ 編集]

sugataさん、こんばんは。
芥川や谷崎も好きなので、楽しく読ませていただきました。
調べたら、『開化の殺人』が掲載された文芸誌は「芸術的探偵小説特集」を組んだのですね。佐藤春夫『指紋』や谷崎作品も同時掲載されたようです。
芸術的探偵小説って何?ってツッコミ入れたくなるのですが、黒岩涙香由来の新聞探偵小説と対比したのでしょうか。大正中期という探偵小説の揺籃時代にあって、芸術的というお題目に深い意味はなく、雑誌側としては、文学者が書いてみた探偵小説程度の認識だったのかも。
のちの、木々高太郎と甲賀三郎の論争などを思い合わせると、いろいろ興味深く感じられました。
【2021/05/11 00:03】 URL | SIGERU #gvOA6bH6[ 編集]















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