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 L・T・ミードの短篇集『マダム・サラ ストランドの魔法使い』を読む。二十世紀初頭に暗躍した女犯罪者マダム・サラ、そして彼女の野望を食い止めるべく奔走する警察医ヴァンデルーアと相棒ドルースの対決を描いた連作短篇集である。
 訳者の平山氏は商業誌だけでなく、自ら〈ヒラヤマ探偵文庫〉を立ち上げて個人でもミステリの翻訳を行なっているが、その中心となるのがホームズのライヴァルたち。「思考機械」や「隅の老人」といったメジャーどころもよいけれど、〈ヒラヤマ探偵文庫〉で取り上げられる、今ではほとんど知られていないシリーズもまた魅力的だ。
 本書はその中でもかなり異色なシリーズであり、予想以上に楽しめる一冊だった。

 マダム・サラ

Madame Sara「マダム・サラ」
The Blood-Red Cross「血の十字架」
The Face of the Abbot「修道院長の顔」
The Talk of the Town「ロンドンで評判の話」
The Bloodstone「血の石」
The Teeth of the Wolf「オオカミの牙」

 収録作は以上。上で異色のシリーズと書いたのは、やはりマダム・サラというキャラクターの設定にある。女犯罪者が主人公という部分だけは事前に知っていたので、てっきり女ルパン、あるいはフィデリティ・ダヴや峰不二子なんてところを予想していたのだが、蓋を開けるとこれが義賊などとは程遠い、根っからの犯罪者。宝石収集のためには人殺しも厭わない恐るべき女性で、モリアーティとかレクターの類であった(笑)。
 見た目は二十五歳ぐらいの美女だが、証言によると数十年前と容姿が変わっていないらしく、まったくの年齢不詳というのも胡散臭くてよい。表向きは美容整形を専門にしているが、医学にも長け、その美貌と技術で多くの女性を虜にし、犯罪に利用するのである。犯行手口は意外にも科学的知識を駆使したものが多く、心理と科学技術の両面で企てる陰謀が、時代を考慮せずとも新鮮な感じだ。
 ただ、犯罪者だけに注目した物語ではなく、対抗する警察医ヴァンデルーアと相棒ドルースのコンビもしっかり活躍。ラストでは一応、犯罪を未然に防ぎつつも、マダム・サラだけは逃してしまうというのもお約束ながら楽しいところだろう。

 マダム・サラが初登場する「マダム・サラ」、続く「血の十字架」はどちらも科学的トリックを用い、意外にしっかりした謎解きが楽しめる。シリーズの方向性を示すだけでなく、水準の高さを感じさせる。
 問題は三作目の「修道院長の顔」だろう。前二作がいい振りになっているというべきか、オカルト趣味で始まり、かなり期待をさせておいて、ラストは驚愕のトリックで幕を閉じる。カーのアレとかコロンボのアレに匹敵する、まさに世界三大顔ミステリといっても過言ではない(笑)。
 続く「ロンドンで評判の話」、「血の石」は再びトリッキーかつ科学的知識を用いた作で、これらも悪い出来ではない。「修道院長の顔」という問題作はあるけれど、全般的に盛り上げかたも上手く、これはもっと読みたくなるシリーズだなぁと思ったが、ラストの「オオカミの牙」で思い切りよくシリーズを完結させたのには驚いてしまった。
 いや、ホームズのライヴァルにも実にいろいろあるものだ。

テーマ:推理小説・ミステリー - ジャンル:本・雑誌




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