- Date: Fri 04 06 2021
- Category: 海外作家 ローマー(サックス)
- Community: テーマ "推理小説・ミステリー" ジャンル "本・雑誌"
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サックス・ローマー『悪魔博士フー・マンチュー』(ヒラヤマ探偵文庫)
サックス・ローマーの『悪魔博士フー・マンチュー』を読む。世界征服を企む中国の天才科学者にして大犯罪者フー・マンチュー博士と、その野望を食い止めようとする英国政府の弁務官ネイランド・スミスとピートリー医師の対決を描いたシリーズである。
シリーズ一作目『怪人フー・マンチュー』はハヤカワミステリから出ており、本作はその続編、シリーズ二作目にあたる。
こんな話。怪人フー・マンチューとの死闘から二年。英国政府の弁務官ネイランド・スミスと共に活躍したピートリー医師も、今は本業に打ち込む日々であった。そんなある日の深夜のこと、ピートリーはエルサム牧師と酒を楽しんでいたが、突然の電話で往診を頼まれる。
しかし、それは一緒にいたエルサム牧師を誘拐するための、偽の呼び出し電話であった。おりしもロンドンに戻ってきたスミスが現れ、ピートリーと共にエルサム牧師の行方を追うが……。

いやあ、疲れた(笑)。疲れたけれど面白い。
一作目の『怪人フー・マンチュー』は既読なのでだいたい雰囲気はわかっていたつもりだったが、二作目はさらにパワーアップしている印象。リーダビリティもかなり上がったのではないか。とにかく各章ごとにヤマ場があって、しかもたいていスミスとビートリーがピンチに陥る展開なので、読んでいるこちらまで体力を使う。あまりにもフー・マンチューの策略に嵌るものだから、ビートリーなど「全然教訓にできていない」と嘆く始末だ。
もちろん活劇メインのスリラーなので、あまり深く考えるような内容ではない。フー・マンチューとスミスたちの対決にハラハラドキドキするだけの物語なのだが、とにかくこの徹底したエンタメ感&疾走感が最大の売りなのは間違いない。
とはいえ魅力はそれだけではない。活劇前提とはいいながらもときどき不可能犯罪らしき事件も放り込んでくるから見逃せない。だいたいは密室ものなのだけれど、トリックがどれもこれも●●系というのはある意味すごいし、それ以外のトリックも脱力間違いなし(笑)。
ただ、けっこう好き勝手に風呂敷を広げているようで、意外にポオやドイルの影響は受けているなぁという感じも受ける。単純ながらクラシックミステリの中でここまで個性を確立させているのは見事だし、むしろミステリファンなら一度は読んでおくべきシリーズなのではないか。
なお、前作『怪人フー・マンチュー』の感想で、「英国の覇権の危機、不安定なヨーロッパの政情、戦争への恐怖などをイメージとして具現化させたものがフー・マンチューの正体なのでは?」なんてことを書いたのだが、解説によるとまさに当時のヨーロッパで流行していた「黄禍論」がベースにあるという。
「黄禍論」でバッシングされているのは中国人だけでなく、むしろ日本人こそ蔑視や畏怖の対象だったのだから、もしかするとフー・マンチューは中国人ではなく日本人だった可能性もあったはず。世紀の悪役だから日本人でなくとよかったと思う反面、ちょっと残念な気もするなぁ。
シリーズ一作目『怪人フー・マンチュー』はハヤカワミステリから出ており、本作はその続編、シリーズ二作目にあたる。
こんな話。怪人フー・マンチューとの死闘から二年。英国政府の弁務官ネイランド・スミスと共に活躍したピートリー医師も、今は本業に打ち込む日々であった。そんなある日の深夜のこと、ピートリーはエルサム牧師と酒を楽しんでいたが、突然の電話で往診を頼まれる。
しかし、それは一緒にいたエルサム牧師を誘拐するための、偽の呼び出し電話であった。おりしもロンドンに戻ってきたスミスが現れ、ピートリーと共にエルサム牧師の行方を追うが……。

いやあ、疲れた(笑)。疲れたけれど面白い。
一作目の『怪人フー・マンチュー』は既読なのでだいたい雰囲気はわかっていたつもりだったが、二作目はさらにパワーアップしている印象。リーダビリティもかなり上がったのではないか。とにかく各章ごとにヤマ場があって、しかもたいていスミスとビートリーがピンチに陥る展開なので、読んでいるこちらまで体力を使う。あまりにもフー・マンチューの策略に嵌るものだから、ビートリーなど「全然教訓にできていない」と嘆く始末だ。
もちろん活劇メインのスリラーなので、あまり深く考えるような内容ではない。フー・マンチューとスミスたちの対決にハラハラドキドキするだけの物語なのだが、とにかくこの徹底したエンタメ感&疾走感が最大の売りなのは間違いない。
とはいえ魅力はそれだけではない。活劇前提とはいいながらもときどき不可能犯罪らしき事件も放り込んでくるから見逃せない。だいたいは密室ものなのだけれど、トリックがどれもこれも●●系というのはある意味すごいし、それ以外のトリックも脱力間違いなし(笑)。
ただ、けっこう好き勝手に風呂敷を広げているようで、意外にポオやドイルの影響は受けているなぁという感じも受ける。単純ながらクラシックミステリの中でここまで個性を確立させているのは見事だし、むしろミステリファンなら一度は読んでおくべきシリーズなのではないか。
なお、前作『怪人フー・マンチュー』の感想で、「英国の覇権の危機、不安定なヨーロッパの政情、戦争への恐怖などをイメージとして具現化させたものがフー・マンチューの正体なのでは?」なんてことを書いたのだが、解説によるとまさに当時のヨーロッパで流行していた「黄禍論」がベースにあるという。
「黄禍論」でバッシングされているのは中国人だけでなく、むしろ日本人こそ蔑視や畏怖の対象だったのだから、もしかするとフー・マンチューは中国人ではなく日本人だった可能性もあったはず。世紀の悪役だから日本人でなくとよかったと思う反面、ちょっと残念な気もするなぁ。
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