- Date: Sun 06 06 2021
- Category: 海外作家 フリーマン(オースティン)
- Community: テーマ "推理小説・ミステリー" ジャンル "本・雑誌"
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R・オースティン・フリーマン『ソーンダイク博士短篇全集 II 青いスカラベ』(国書刊行会)
R・オースティン・フリーマンの『ソーンダイク博士短篇全集 II 青いスカラベ』を読む。第二巻では後に長篇化された中篇の二作、短篇集『大いなる肖像画の謎』に収録されていたソーンダイク博士もの二作、そして短篇集『ソーンダイク博士の事件簿』を丸ごと収録している。詳しくは以下のとおり。
中篇
31 New Inn「ニュー・イン三十一番地」
The Dead Hand「死者の手」
『大いなる肖像画の謎』
Percival Bland's Proxy「パーシヴァル・ブランドの替玉」
The Missing Mortgage「消えた金融業者」
『ソーンダイク博士の事件簿』
The Case of the White Footprints「白い足跡の事件」
The Blue Scarab「青いスカラベ」
The New Jersey Sphinx「ニュージャージー・スフインクス」
The Touchstone「試金石」
A Fisher of Men「人間をとる漁師」
The Stolen Ingots「盗まれたインゴット」
The Funeral Pyre「火葬の積み薪」
付録
「『ソーンダイク博士の著名事件』まえがき」
「探偵小説の技法」

『ソーンダイク博士短篇全集 I 歌う骨』の記事でも書いたが、ソーンダイク博士シリーズの特徴といえば、科学捜査とロジックの重視、倒叙ミステリというところだろう。ただ、科学捜査はロジックの根拠になるものだし、倒叙ミステリはロジックの重要さを推し進めた結果、誕生したという経緯もあるので、詰まるところソーンダイク博士ものにおいては、ロジックこそすべてということになるのかもしれない。
ロジックによる真実の追求こそミステリの真髄。著者もいくつかのコラム等でそのようなことを書いているほどだが、あまりにロジックを重視するあまり、ミステリのセンセーショナルな装飾をかなり嫌っていたのは興味深い。アクションや恋愛興味、ユーモアのような味付け的なものなら、まだわからないでもないが、それがレッド・ヘリングといった要素にまで及ぶのは強烈だ。
本書収録の「『ソーンダイク博士の著名事件』まえがき」、「探偵小説の技法」にもその一端が示されているが、これが他の作家、さらには読者にまで辛辣な書き方で恐れ入る。
まあ、どうしても狭量な感じも受けるし、こういった考え方が自作におけるミステリの幅を減じているところはあるのだけれど、この時代にここまで本格探偵小説を意識していたことは何より評価していいだろう。
ちなみにフリーマンの作品に出来不出来のバラツキが少ないのも、ロジック重視の副次的な効果ともいえるだろう。長編だとどうしても地味な部分が勝ってしまうところもあるが、短編は押し並べて安心して読めるものばかり。ただし、短すぎる作品はロジックの過程を楽しむ部分が犠牲になりがちなので、中篇ぐらいがちょうどいい塩梅なのかもしれない。
したがって全般的におすすめの一冊ではあるが、強いていえば長めの「ニュー・イン三十一番地」、「死者の手」、倒叙の「パーシヴァル・ブランドの替玉」、「消えた金融業者」、味付けが濃いめの(笑)「ニュージャージー・スフィンクス」、「盗まれたインゴッド」などが気に入った。
中篇
31 New Inn「ニュー・イン三十一番地」
The Dead Hand「死者の手」
『大いなる肖像画の謎』
Percival Bland's Proxy「パーシヴァル・ブランドの替玉」
The Missing Mortgage「消えた金融業者」
『ソーンダイク博士の事件簿』
The Case of the White Footprints「白い足跡の事件」
The Blue Scarab「青いスカラベ」
The New Jersey Sphinx「ニュージャージー・スフインクス」
The Touchstone「試金石」
A Fisher of Men「人間をとる漁師」
The Stolen Ingots「盗まれたインゴット」
The Funeral Pyre「火葬の積み薪」
付録
「『ソーンダイク博士の著名事件』まえがき」
「探偵小説の技法」

『ソーンダイク博士短篇全集 I 歌う骨』の記事でも書いたが、ソーンダイク博士シリーズの特徴といえば、科学捜査とロジックの重視、倒叙ミステリというところだろう。ただ、科学捜査はロジックの根拠になるものだし、倒叙ミステリはロジックの重要さを推し進めた結果、誕生したという経緯もあるので、詰まるところソーンダイク博士ものにおいては、ロジックこそすべてということになるのかもしれない。
ロジックによる真実の追求こそミステリの真髄。著者もいくつかのコラム等でそのようなことを書いているほどだが、あまりにロジックを重視するあまり、ミステリのセンセーショナルな装飾をかなり嫌っていたのは興味深い。アクションや恋愛興味、ユーモアのような味付け的なものなら、まだわからないでもないが、それがレッド・ヘリングといった要素にまで及ぶのは強烈だ。
本書収録の「『ソーンダイク博士の著名事件』まえがき」、「探偵小説の技法」にもその一端が示されているが、これが他の作家、さらには読者にまで辛辣な書き方で恐れ入る。
まあ、どうしても狭量な感じも受けるし、こういった考え方が自作におけるミステリの幅を減じているところはあるのだけれど、この時代にここまで本格探偵小説を意識していたことは何より評価していいだろう。
ちなみにフリーマンの作品に出来不出来のバラツキが少ないのも、ロジック重視の副次的な効果ともいえるだろう。長編だとどうしても地味な部分が勝ってしまうところもあるが、短編は押し並べて安心して読めるものばかり。ただし、短すぎる作品はロジックの過程を楽しむ部分が犠牲になりがちなので、中篇ぐらいがちょうどいい塩梅なのかもしれない。
したがって全般的におすすめの一冊ではあるが、強いていえば長めの「ニュー・イン三十一番地」、「死者の手」、倒叙の「パーシヴァル・ブランドの替玉」、「消えた金融業者」、味付けが濃いめの(笑)「ニュージャージー・スフィンクス」、「盗まれたインゴッド」などが気に入った。
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