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色川武大『怪しい来客簿』(文春文庫)
三月ほど前に田畑書店という出版社から、ちょっと気になる本が出た。田畑書店編集部/編『色川武大という生き方』と北上次郎の『阿佐田哲也はこう読め!』の二冊である。
ご存知のように、色川武大=阿佐田哲也は本名の色川名義で純文学系、阿佐田哲也名義では麻雀小説を書いた作家で、亡くなって三十年経った今でも多くのファンがいる。管理人も学生時代に麻雀にハマっていたのだが、おりしも阿佐田哲也の作品が角川文庫から続々出てくるタイミングと重なり、それこそ貪るように読んでいた時期がある。麻雀小説はもちろん面白いが、その他のギャンブルや裏社会を描いた作品も面白いし、何よりダメ人間の生き様がよかった。ドロップアウトし、格好悪い生き方しかできない男たちが、時折垣間見せるかっこよさ。そこに痺れたのである。
まあ、そんな色川武大=阿佐田哲也の電子版全集が。二年ほど前に小学館から出たのだが、先の二冊はこの電子全集の解説などをまとめたものらしい。そこで懐かしさもあって両方とも購入したのはいいが、「解説」だけ読むのも物足りない気がしないではない。そこで景気づけに読んだのが、本日の読了本『怪しい来客簿』である。

今では二つのペンネームどちらも十分に知られていると思うのだが、著者のブレイクは阿佐田哲也名義による麻雀小説が全然早い。文壇デビューこそ色川武大名義だったが、その後低迷し、阿佐田哲也として成功したのちに再び色川武大名義でも執筆活動を再開する。『怪しい来客簿』はそのリスタート作品でもある。
本作は連作短篇で、ストーリーというほどのものはない。戦前から戦後にかけて作者が出会った、有名無名(ほぼ無名だが)の人々のエピソードを描いている。
ほとんど実話のようであり、エッセイのようでもあるのだが、夢の話や怪談のような話も織りまぜ、結局はフィクションなんだかノンフィクションなんだか釈然としないまま綴られていく。それはまるで作者の頭の中をダラダラと案内されているようで、行き着く先がわからない不思議な読書体験となる。
たとえば死んだ人間の思い出を語る。それは親戚だったり中学時代の同級生だったりするが、それが終わって別のエピソードに移ってしまい、最後の最後でまた当の親戚や同級生が登場する。幽霊とは書かないが、それが死者なのか生者なのかもわからないまま妙な地点に着地する。こういうフラフラした視点というか、意識というか、著者ならではの感性を味わうのが極めて面白いのである。
著者は特殊な病気を患ってもいたし、若い頃はアウトローな暮らしも送っていた。普通の人とは感覚にかなりのズレもあり、描写としてはなかなか刺激が強いものもある。しかし、そんな裏社会の体験もあるから、著者の視線は根っこのところでどこか優しくもある。それもまた面白い。
阿佐田哲也『麻雀放浪記』がどんなに面白くても、麻雀を知らない人には流石にオススメしにくいが(本当は麻雀を知らなくても一級のビカレスクロマン、ビルドゥングスロマンとして楽しめるのだが)、本書は幅広くオススメしたい一冊。
ご存知のように、色川武大=阿佐田哲也は本名の色川名義で純文学系、阿佐田哲也名義では麻雀小説を書いた作家で、亡くなって三十年経った今でも多くのファンがいる。管理人も学生時代に麻雀にハマっていたのだが、おりしも阿佐田哲也の作品が角川文庫から続々出てくるタイミングと重なり、それこそ貪るように読んでいた時期がある。麻雀小説はもちろん面白いが、その他のギャンブルや裏社会を描いた作品も面白いし、何よりダメ人間の生き様がよかった。ドロップアウトし、格好悪い生き方しかできない男たちが、時折垣間見せるかっこよさ。そこに痺れたのである。
まあ、そんな色川武大=阿佐田哲也の電子版全集が。二年ほど前に小学館から出たのだが、先の二冊はこの電子全集の解説などをまとめたものらしい。そこで懐かしさもあって両方とも購入したのはいいが、「解説」だけ読むのも物足りない気がしないではない。そこで景気づけに読んだのが、本日の読了本『怪しい来客簿』である。

今では二つのペンネームどちらも十分に知られていると思うのだが、著者のブレイクは阿佐田哲也名義による麻雀小説が全然早い。文壇デビューこそ色川武大名義だったが、その後低迷し、阿佐田哲也として成功したのちに再び色川武大名義でも執筆活動を再開する。『怪しい来客簿』はそのリスタート作品でもある。
本作は連作短篇で、ストーリーというほどのものはない。戦前から戦後にかけて作者が出会った、有名無名(ほぼ無名だが)の人々のエピソードを描いている。
ほとんど実話のようであり、エッセイのようでもあるのだが、夢の話や怪談のような話も織りまぜ、結局はフィクションなんだかノンフィクションなんだか釈然としないまま綴られていく。それはまるで作者の頭の中をダラダラと案内されているようで、行き着く先がわからない不思議な読書体験となる。
たとえば死んだ人間の思い出を語る。それは親戚だったり中学時代の同級生だったりするが、それが終わって別のエピソードに移ってしまい、最後の最後でまた当の親戚や同級生が登場する。幽霊とは書かないが、それが死者なのか生者なのかもわからないまま妙な地点に着地する。こういうフラフラした視点というか、意識というか、著者ならではの感性を味わうのが極めて面白いのである。
著者は特殊な病気を患ってもいたし、若い頃はアウトローな暮らしも送っていた。普通の人とは感覚にかなりのズレもあり、描写としてはなかなか刺激が強いものもある。しかし、そんな裏社会の体験もあるから、著者の視線は根っこのところでどこか優しくもある。それもまた面白い。
阿佐田哲也『麻雀放浪記』がどんなに面白くても、麻雀を知らない人には流石にオススメしにくいが(本当は麻雀を知らなくても一級のビカレスクロマン、ビルドゥングスロマンとして楽しめるのだが)、本書は幅広くオススメしたい一冊。