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探偵小説三昧

天気がいいから今日は探偵小説でも読もうーーある中年編集者が日々探偵小説を読みまくり、その感想を書き散らかすページ。

 

YOUCHAN『ゾランさんと探偵小説』(盛林堂ミステリアス文庫)

 イラストレーター・YOUCHAN(ユーチャン)の『ゾランさんと探偵小説』を読む。といってもイラスト展の図録なので、読むというよりは眺めるという感じ。
 構成としては、以下のとおり。

「ゾランさん英訳全集の装画」
「日本の探偵小説」
「最近の本の仕事より」

 ゾランさんと探偵小説

 正直、イラストレーターとしてのYOUCHANについては詳しいことは知らないのだが、盛林堂ミステリアス文庫や彩流社の復刻アンソロジー・シリーズの挿画で、その作品には何度もお目にかかっている。
 最近では『金田一耕助語辞典』の各種イラストや雑誌『東京人』2021年6月号〈特集「江戸東京探偵散歩」地図と写真で旅する〉の名探偵肖像画が実に印象的だった。特に後者の仕事は、普通のイラストレーターにはとても無理な仕事だと思うのだが、どうやらYOUCHAN自身もかなりのミステリマニアらしく、それも納得である。

 ただ、タイトルの「探偵小説」はわかるが「ゾランさん」はなんだ、という人も多かろう。管理人も恥ずかしながら読んだことはないが、これはセルビアの作家、ゾラン・ジヴコヴィチのことである。幻想、SF、ポストモダン、シュールレアリスムというあたりが主戦場で、ゾランさんの作品もかなり気にはなるが、それはまた別の機会に。
 とにかく、そのゾラン・ジヴコヴィチの英訳本全集が出ることになり、その挿画をすべて担当したのがYOUCHANなのだ。いや、それはすごいじゃないか。YOUCHAN自身もこの仕事が創作上でも大きな転機になったということを書いている。

 個人的にもYOUCHANの絵はかなり気に入っている(まあ、気に入らなければ、そもそも本書は買わないけれども)。どことなく切り絵っぽいテイストで、一見、抽象画っぽいけれども、要所にキーワードとなるモチーフが描かれている。それが絵解きを連想させて、探偵小説心をくすぐる感じで惹かれるのだ。
 あくまで好みのレベルではあるが、実は「日本の探偵小説」よりも「ゾランさん英訳全集の装画」の方がより引き込まれた。題材となる小説の中身を知らないことが、むしろ想像力を掻き立てられて、ワクワクできたのかもしれない。欲をいえば、もっと大きな判型で見たかったところで、文庫サイズというのがちと残念であった。
 まあ、ちょうど今、本書に絡む個展を絶賛開催中らしいので、時間をなんとか作って現物を観にいきたいところだ。
Comments
 
ポール・ブリッツさん

そうか、大人向けではなかったんですね。
それにしても、桜井氏が売れたのは小説よりもイラストが先なのに、なぜ絵も自分でやらなかったんでしょうね。

ちなみにゲームブックは、出始めの頃、現代教養文庫のものは面白くて何冊かやりましたが、とにかくプレイが面倒で続かなかったです(苦笑)
 
あら、ほんとにアマゾンから消えてた。去年かおととしくらいまでは2000円くらいで売ってたんですけどねえ。

ゲームブックはブームが去ったあとは古本屋もあまり取り扱いたがらなかったのでしょうか、いまではもうどれもプレミアもので、しかも西東社の作品はメインターゲットが小中学生だったせいか、古本屋から姿を消すのも早かったですから……。

本書もその例に漏れず、マニアからすれば「子供向け」「食い足りない」という感想しか抱けないんじゃないかなあ。ほんとに、マンガを読むのと同様の感覚で読むような本ですから。

まあ、ミステリゲームブックでは、山口雅也「13人目の名探偵」よりは入手しやすいのでは……と思います(^^;)
 
ポール・ブリッツさん

いえ、これは未所持です……っていうか知らない本です。
しかし、著者が桜井一氏、イラストが桑田次郎、
読み手が完全犯罪を狙うゲームブックって
むちゃくちゃ気になるじゃないですか。
しかもamazonや日本の古本屋で検索かけても売ってないし。
とりあえず現物を一度は見てみたいものです。
 
桜井一先生では、ゲームブックの「完全犯罪ゲーム」かな?(笑)

ゲームブック華やかなりしころに出た一冊で、自分が「殺人事件の犯人」になり、なんとか法の手を免れようと奮闘する怪作。一部では根強いファンがいます。

イラストは桜井先生じゃなくて桑田次郎先生。

まあお持ちのことと思いますが……。
 
たつのじさん

ああ、懐かしい。そうですね。
挿絵だけでなく、「酒口屋雑貨店」という連載がありました。
確かにそのままのタイトルでは少し厳しいかもですね(笑)。
 
EQといえば「酒口屋雑貨店」ですねー^^
光文社知恵の森文庫で一冊に纏められたとき、『図解ミステリー読本』なんていうタイトルに変えられて、ちょっとがっかりした覚えがあります(出してくれただけ、ありがたいと思い直しましたが)。
多分、『酒口屋雑貨店』では何の本か分かり辛い、という判断だったのでしょうか・・・・。



 
たつのじさん

コメントありがとうございます。
私はYOUCHANさんのイラストは盛林堂の本で意識するようになったのですが、後から彩流社の「復刻アンソロジー・シリーズ」の装画の方だと気づき、ストンと胸に落ちた感じです。
個人的には抽象的なタイプの方が、よりYOUCHANさんさんの魅力が出ていて好みですね。

桜井画伯は懐かしいですね。私も好きな絵描きさんで、たつのじさん同様『ミステリマップ』や『名探偵100人紳士録』は気に入っております。光文社の今はなきミステリ雑誌『EQ』でよく挿絵を書かれていましたが、それが先の本にも反映されているようですね。
あくまで原典に忠実に、という条件つきですが、肖像画入りの名探偵事典は私もあったら買っちゃいますね。
 
いつも興味深く閲覧させて頂いておりますが、今回初めて書き込みさせていただきます。

『金田一耕助語辞典』、私も読みましたが、久しぶりにミステリ系の挿絵で期待出来るイラストレーターさんが現れたなと言う感じでした。冒頭の金田一耕助の人となりや住居などを高密度で、でもちゃんと見やすく紹介してあるページは圧巻で、あれで購入を決めたほどです(ああいうレイアウトに弱いので)。

名探偵の肖像画を含めミステリのイラストレーターと言えば、個人的に一番好きなのは後年の風間一輝こと桜井一さんですね。
『ミステリマップ』や『名探偵100人紳士録』は、折りに触れて読み返し続けている座右の書です。クイズブック、『86分署物語』、酒口風太郎名義のものまで、かなり蒐めました。
そろそろ古今東西の名探偵事典の総決算のような本、誰かどこかで書いてくれないものかと夢想しています。もちろん味のある肖像画は必須で。

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プロフィール

sugata

Author:sugata
ミステリならなんでも好物。特に翻訳ミステリと国内外問わずクラシック全般。
四半世紀勤めていた書籍・WEB等の制作会社を辞め、2021年よりフリーランスの編集者&ライターとしてぼちぼち活動中。

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