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大下宇陀児『別荘の殺人』(湘南探偵倶楽部)
仕事と体調のせいもあるのだが、いまひとつ読書中の長編作に乗ることができないので、大下宇陀児の短篇で気分転換を図る。ものは湘南探偵倶楽部さん復刻の「別荘の殺人」。

語り手が新聞記者をやっていた頃の事件を語るという体の一席。記者はある日、何かと黒い噂の絶えない江並男爵の取材へ向かう。江並男爵はある村の断崖に奇怪な別荘を作り、そこに滞在しているという。
記者は別荘に向かう途中でその別荘を作ったという建築技師と知り合う。すると技師は、男爵が海底から金塊を掘り出す研究を行なっていると話し、その研究を一緒に行っている科学者を紹介する。だが、その科学者は実は男爵とただならぬ因縁を持ち、やがてそれを実証するかのように男爵が変死を遂げる……。
短い話なので、実はこのあらすじ紹介だけで全体のストーリーの3/4ぐらいはある(苦笑)。長篇であれば、それこそ導入部ぐらいのイメージだが、事件発生直後に謎解きも始まり、あっという間の事件解決となるのが残念。
というのも奇怪な別荘の設定や登場人物の怪しさなど、短篇にしておくのがもったいないほどの導入なのである。男爵殺害のトリックは時代を考えるとこんなものだろうが、トリックそのものは今ひとつでも、そのトリックを用いるベースとなる発想が秀逸。後の某大物作家の代表作にも通じるところがあって、大下宇陀児がそれを膨らませなかったことがとにかくもったいない一作である。

語り手が新聞記者をやっていた頃の事件を語るという体の一席。記者はある日、何かと黒い噂の絶えない江並男爵の取材へ向かう。江並男爵はある村の断崖に奇怪な別荘を作り、そこに滞在しているという。
記者は別荘に向かう途中でその別荘を作ったという建築技師と知り合う。すると技師は、男爵が海底から金塊を掘り出す研究を行なっていると話し、その研究を一緒に行っている科学者を紹介する。だが、その科学者は実は男爵とただならぬ因縁を持ち、やがてそれを実証するかのように男爵が変死を遂げる……。
短い話なので、実はこのあらすじ紹介だけで全体のストーリーの3/4ぐらいはある(苦笑)。長篇であれば、それこそ導入部ぐらいのイメージだが、事件発生直後に謎解きも始まり、あっという間の事件解決となるのが残念。
というのも奇怪な別荘の設定や登場人物の怪しさなど、短篇にしておくのがもったいないほどの導入なのである。男爵殺害のトリックは時代を考えるとこんなものだろうが、トリックそのものは今ひとつでも、そのトリックを用いるベースとなる発想が秀逸。後の某大物作家の代表作にも通じるところがあって、大下宇陀児がそれを膨らませなかったことがとにかくもったいない一作である。
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