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 今年の二月ごろ、ほぼ予告もなく扶桑社ミステリーから刊行されたレオ・ブルースの『ビーフ巡査部長のための事件』を読む。
 まあ何らかの事情はあったのだろうが、せっかくのレオ・ブルースなので、版元はもう少し前宣伝して盛り上げてほしかったところだ。作品自体はいつも素晴らしいし、評判も悪くないのに、いかんせんセールスにはなかなか結びつかないようで、何とも残念なことである。
 そんなわけで、微力ながら少しでもレオ・ブルース普及の助けになればということで、本日も感想をアップしておこう。

 こんな話。英国はケント州、バーンフォードという小さな村で暮らすショルターという婦人が、私立探偵を営むビーフのもとを訪ねてきた。先ごろ亡くなった兄の死の真相を突き止めてほしいという。ビーフは渋る事件作家のタウンゼンドを誘い、さっそくバーンフォードに向かう。
 その一年前のこと。バーンフォードに移住してきた元時計職人のウェリントン・チックルという男がいた。彼はある目的のもと、その目的とは芸術的な殺人だった。そのための計画をたて、準備を整え、絶好のタイミングがきたように思えたが……。

 ビーフ巡査部長のための事件

 まず結論から書いておくと、いつもどおりのレオ・ブルースというか、安定した捻くれ度合いで非常に楽しめた。

 嬉しいのは、本作のシリーズ探偵がビーフ巡査部長であるということ。歴史教師キャロラス・ディーンものも悪くないけれど、ビーフものはワトスン役のライオネル・タウンゼンドも合わせてキャラクターが個性的で、その掛け合いがまた面白い。
 事件そのものも魅力的だ。レオ・ブルース作品の唯一の弱点は地味なストーリーだと思うが、本作についてはニコラス・ブレイクの傑作『野獣死すべし』よろしく、チックルの手記を冒頭に用意するという構成であり、倒叙的なアプローチをとってくるのが興味深い。

 とはいえ、それらは本作の表面的な見方にすぎない。キャラクターの掛け合いにしてもストーリーにしても、本作(というか本シリーズ)の本当の面白さ、魅力というのは、ミステリの定石を外してみせるところにある。ちょっと大げさにいえばメタ的な要素が常にアイデアのベースにあり、それがミステリファンの心をくすぐるわけである。
 たとえばストーリーについては、「おお、今回は倒叙でくるのか」と思いきや、警察側の容疑者はチックル以外の人物に絞られ、なかなか著者の狙いが読めない。そこで「ラストでは思いもよらない方法でチックルの犯行の穴を突くのだろうか?」と考えるが、「それではあまりにオーソドックスすぎないか」となる。そんなもモヤモヤのままラストへ突入し、まったく異なる角度から真相を見せられて、思わず笑ってしまうわけである。

 惜しむらくは、そういった著者の狙いがそこそこミステリを読んでいる人向けであることだろう。ミステリをまったく読んだことがないという人には、本作の意図が完全に伝わらない可能性はある。真相については、リアルに怒る人がいるかもしれない(笑)。
 著者のメタ的アプローチはミステリの可能性を検証しているともいえるし、パロディの世界で遊んでいるような感じもあるのだ。
 ただ、そういったひねくれた趣向を遠慮なくぶっ込んでくることが、他の作家にはないレオ・ブルース独特の魅力であることは間違いないだろう。

 ううむ、皆、感づいているのだろうが、こういう捻くれた面白さがセールスに結びつきにくいのだろうな(苦笑)。

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