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杉みき子『マンドレークの声 杉みき子のミステリ世界』(亀鳴屋)
杉みき子の『マンドレークの声 杉みき子のミステリ世界』を読む。著者は児童文学作家だが長年のミステリファンでもある。児童向けの著作のなかにはミステリ的な趣向を凝らしたものも少なくないそうで、そういう作品を集めたものが本書。

「わらぐつのなかの神様」
「春のあしおと」
「青い地図」
「風の橋」
「白い手ぶくろ」
「自由を我等に」
「あしあと」
「かくれんぼ」
「夜の回送バス」
「マンドレークの声」
「静かな町」
「ポケットにバランスを」
「亜愛一郎殺害未遂事件」
収録作は以上。ただし、ここに挙げたタイトルは創作のみで、ページ数としては半分ほど。では残りは何かというと、【クリスティと遊ぶ】と題した戯文やエッセイの類い、【作家と作品について】と題した作品解説の数々、【投稿から】と題した雑誌への投稿をまとめたものである。
この創作以外の文章がなかなか熱い。というのもアプローチが作家や評論家のそれではなく、まるでミステリマニアが書いたような内容なのである。というか間違いなくマニアである。
【クリスティと遊ぶ】では特にそれが顕著で、クリスティ作品を用いたいろはがるたや短歌、マザーグース、架空全集など、いい意味でお馬鹿な遊びを連発。【作家と作品について】はもう少し真面目にやっているが、こちらではM・P・シールなんて名前をさらりと披露したり、あるいはシールも含め「ホームズのライヴァル」あたりの作家の短編をまとめて読みたいと宣う。これらは1973年の文章なので創元推理文庫の「ホームズのライヴァル」もまとまっていない時代のはず。さすがである。
極め付けは【投稿から】だろう。たいていの雑誌には読者の感想を載せる投稿欄があるけれど、著者はミステリ雑誌の「ミステリ・マガジン」や「幻影城」へ幾度となく投稿しており、その量がまた尋常ではない。しかもこの時期はとっくに児童文学者「杉みきこ」としても名を成しているはずだが、これらの投稿は本名で行われているから恐れ入る。よく、掲載されたバックナンバーを覚えていたなぁと、変なところにも感心してしまった。
順番が逆になったけれど、創作も悪くない。小学生ぐらいの読者を想定した児童文学なので、教育的・道徳的な要素はもちろん大きいのだけれど、そこにいわゆるミステリ的な手法が効果的に用いられている。その結果、思わずハッとさせられたり、ラストの余韻に浸らされたりと、実に印象的な作品が揃っている。何気なくホラー風味が感じられる作品がいくつか混じっており、これがまたいい。
個人的には全作品楽しめたが、しいて好みをあげておくと。
クリスティ@を意識したという「わらぐつのなかの神様」
少年探偵団の世界観がいきなり爽やかな結末を迎える「青い地図」
風をモチーフにしたファンタジー「風の橋」
心温まるけれどもちょっぴり怖さもある「白い手ぶくろ」
怖さでいえば「夜の回送バス」も悪くないし、こちらの方がわかりやすさでは上か。
表題作の「マンドレークの声」も文句なし。
クリスティーのパロディ「ポケットにバランスを」、泡坂妻夫のパロディ「亜愛一郎殺害未遂事件」も本家のファンであることがよく伝わり、ファンなら思わずニヤリとできることだろう。
ちなみに版元の亀鳴屋は金沢の小さな出版社で、こちらも本好きなら要注目。ミステリファンであれば、先日『ぼくのミステリ・コンパス』が出たばかりなのでご存知の方も多いだろうが、それ以外にもこだわりのセレクトと凝った造本で素敵な本をちょいちょい出してくれる。
本書が気になった方はぜひこちらのサイトからどうぞ(Amazonでは買えません)。

「わらぐつのなかの神様」
「春のあしおと」
「青い地図」
「風の橋」
「白い手ぶくろ」
「自由を我等に」
「あしあと」
「かくれんぼ」
「夜の回送バス」
「マンドレークの声」
「静かな町」
「ポケットにバランスを」
「亜愛一郎殺害未遂事件」
収録作は以上。ただし、ここに挙げたタイトルは創作のみで、ページ数としては半分ほど。では残りは何かというと、【クリスティと遊ぶ】と題した戯文やエッセイの類い、【作家と作品について】と題した作品解説の数々、【投稿から】と題した雑誌への投稿をまとめたものである。
この創作以外の文章がなかなか熱い。というのもアプローチが作家や評論家のそれではなく、まるでミステリマニアが書いたような内容なのである。というか間違いなくマニアである。
【クリスティと遊ぶ】では特にそれが顕著で、クリスティ作品を用いたいろはがるたや短歌、マザーグース、架空全集など、いい意味でお馬鹿な遊びを連発。【作家と作品について】はもう少し真面目にやっているが、こちらではM・P・シールなんて名前をさらりと披露したり、あるいはシールも含め「ホームズのライヴァル」あたりの作家の短編をまとめて読みたいと宣う。これらは1973年の文章なので創元推理文庫の「ホームズのライヴァル」もまとまっていない時代のはず。さすがである。
極め付けは【投稿から】だろう。たいていの雑誌には読者の感想を載せる投稿欄があるけれど、著者はミステリ雑誌の「ミステリ・マガジン」や「幻影城」へ幾度となく投稿しており、その量がまた尋常ではない。しかもこの時期はとっくに児童文学者「杉みきこ」としても名を成しているはずだが、これらの投稿は本名で行われているから恐れ入る。よく、掲載されたバックナンバーを覚えていたなぁと、変なところにも感心してしまった。
順番が逆になったけれど、創作も悪くない。小学生ぐらいの読者を想定した児童文学なので、教育的・道徳的な要素はもちろん大きいのだけれど、そこにいわゆるミステリ的な手法が効果的に用いられている。その結果、思わずハッとさせられたり、ラストの余韻に浸らされたりと、実に印象的な作品が揃っている。何気なくホラー風味が感じられる作品がいくつか混じっており、これがまたいい。
個人的には全作品楽しめたが、しいて好みをあげておくと。
クリスティ@を意識したという「わらぐつのなかの神様」
少年探偵団の世界観がいきなり爽やかな結末を迎える「青い地図」
風をモチーフにしたファンタジー「風の橋」
心温まるけれどもちょっぴり怖さもある「白い手ぶくろ」
怖さでいえば「夜の回送バス」も悪くないし、こちらの方がわかりやすさでは上か。
表題作の「マンドレークの声」も文句なし。
クリスティーのパロディ「ポケットにバランスを」、泡坂妻夫のパロディ「亜愛一郎殺害未遂事件」も本家のファンであることがよく伝わり、ファンなら思わずニヤリとできることだろう。
ちなみに版元の亀鳴屋は金沢の小さな出版社で、こちらも本好きなら要注目。ミステリファンであれば、先日『ぼくのミステリ・コンパス』が出たばかりなのでご存知の方も多いだろうが、それ以外にもこだわりのセレクトと凝った造本で素敵な本をちょいちょい出してくれる。
本書が気になった方はぜひこちらのサイトからどうぞ(Amazonでは買えません)。