- Date: Sun 08 08 2021
- Category: 海外作家 ウォーレス(エドガー)
- Community: テーマ "推理小説・ミステリー" ジャンル "本・雑誌"
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エドガー・ウォーレス『血染めの鍵』(論創海外ミステリ)
ワクチンの2回目を摂取したが、当日の眠気がひどかった以外は今のところ大きな自覚症状もなし。とりあえず、翌日は体がだるいことにして、読書に耽る。
本日の読了本はエドガー・ウォーレスの『血染めの鍵』。ウォーレスは論創海外ミステリのおかげで個人的に再評価できた作家である。本作も百年近く前に発表されたエンタメ小説だというのに、普通に楽しめてしまった。
こんな話。富豪のジェシー・トラスミア老人が自宅で射殺された。しかし現場の地下室は施錠されており、唯一の鍵は室内のテーブル上に残されていた。いわば密室状態である。だが犯行方法こそ謎に包まれていたが、犯人は老人に恨みを抱いていた元仕事仲間のブラウン、現場から急いで姿を消したウォルターズに絞られていた。新聞記者のホランドは、中央警察署のカーヴァー警部とともに事件を追うが……。

著者は二十世紀初頭の三十年ぐらいに活躍した作家である。ホームズの時代からミステリの黄金期にかけてというイメージだが、作品はミステリだけでなくSF等も含めたエンターテインメント全般。多作というだけでなく、その作品の多くがベストセラーとなり、一時代を築き上げた。
ただ、そんな作家はどうしても軽く見られがちで、実際、著者もミステリ史に残る傑作というものは残していない。ただし、近年紹介された作品はそんなイメージをくつがえし、今読んでも普通に楽しめるものばかりで驚いてしまう。これがベストセラー作家の底力というやつか。
その面白さの秘密は、やはりストーリーや設定にあるだろう。本作なども序盤の流れだけを見ると密室を扱った本格ミステリに思えるかもしれないが、本作は決して本格ではない。密室はあくまで読者を楽しませるためのイチ要素であり、それ以外にも読者の気を惹くさまざまな要素を盛り込んでいる。
それは謎めいたヒロインだったり、怪しい中国人だったり、曰くつきの宝石だったり、アクションだったり、ロマンスであったり。それらの要素がややこしく絡みあって、全体のサスペンスを高め、ラストのカタルシスを生む。エピソードのつなぎというか、緩急の付け方もうまく、どうすれば読者が退屈しないか、よくわかっている作家である。
個人的にはラスト近くのあるエピソードが絶妙で、本作にピリッと苦味を効かせている。
とはいえ惜しいという気持ちもある。確かに本作はこれだけでも十分に楽しめるし、当時の読者のニーズもそこにあったのだろう。だが、もし論理的に解決する見せ場を持ってくれば、さらには随所にあるご都合主義をもう少し整理すれば、本作はよりしっかりしたミステリになったはず。それをサスペンスありきの作品で押し通してしまったことが惜しまれる。
特に本作の密室トリックは今や古典ともいえるネタなので、これの謎解きぐらいは探偵役が鮮やかに解明するシーンを作ってあげてほしかった(笑)。
本日の読了本はエドガー・ウォーレスの『血染めの鍵』。ウォーレスは論創海外ミステリのおかげで個人的に再評価できた作家である。本作も百年近く前に発表されたエンタメ小説だというのに、普通に楽しめてしまった。
こんな話。富豪のジェシー・トラスミア老人が自宅で射殺された。しかし現場の地下室は施錠されており、唯一の鍵は室内のテーブル上に残されていた。いわば密室状態である。だが犯行方法こそ謎に包まれていたが、犯人は老人に恨みを抱いていた元仕事仲間のブラウン、現場から急いで姿を消したウォルターズに絞られていた。新聞記者のホランドは、中央警察署のカーヴァー警部とともに事件を追うが……。

著者は二十世紀初頭の三十年ぐらいに活躍した作家である。ホームズの時代からミステリの黄金期にかけてというイメージだが、作品はミステリだけでなくSF等も含めたエンターテインメント全般。多作というだけでなく、その作品の多くがベストセラーとなり、一時代を築き上げた。
ただ、そんな作家はどうしても軽く見られがちで、実際、著者もミステリ史に残る傑作というものは残していない。ただし、近年紹介された作品はそんなイメージをくつがえし、今読んでも普通に楽しめるものばかりで驚いてしまう。これがベストセラー作家の底力というやつか。
その面白さの秘密は、やはりストーリーや設定にあるだろう。本作なども序盤の流れだけを見ると密室を扱った本格ミステリに思えるかもしれないが、本作は決して本格ではない。密室はあくまで読者を楽しませるためのイチ要素であり、それ以外にも読者の気を惹くさまざまな要素を盛り込んでいる。
それは謎めいたヒロインだったり、怪しい中国人だったり、曰くつきの宝石だったり、アクションだったり、ロマンスであったり。それらの要素がややこしく絡みあって、全体のサスペンスを高め、ラストのカタルシスを生む。エピソードのつなぎというか、緩急の付け方もうまく、どうすれば読者が退屈しないか、よくわかっている作家である。
個人的にはラスト近くのあるエピソードが絶妙で、本作にピリッと苦味を効かせている。
とはいえ惜しいという気持ちもある。確かに本作はこれだけでも十分に楽しめるし、当時の読者のニーズもそこにあったのだろう。だが、もし論理的に解決する見せ場を持ってくれば、さらには随所にあるご都合主義をもう少し整理すれば、本作はよりしっかりしたミステリになったはず。それをサスペンスありきの作品で押し通してしまったことが惜しまれる。
特に本作の密室トリックは今や古典ともいえるネタなので、これの謎解きぐらいは探偵役が鮮やかに解明するシーンを作ってあげてほしかった(笑)。
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