- Date: Mon 16 08 2021
- Category: 国内作家 夏目漱石
- Community: テーマ "幻想文学" ジャンル "本・雑誌"
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夏目漱石『幻想と怪奇の夏目漱石』(双葉文庫)
昨年の十一月に双葉文庫から「文豪怪奇コレクション」というシリーズがスタートして、本書『幻想と怪奇の夏目漱石』はその一冊目。
文豪の幻想小説・怪奇小説を集めたシリーズは過去にもいろいろあって、どうしてもラインナップは重なってくるものだが、夏目漱石というのは珍しい。今のところ江戸川乱歩、内田百閒と続き、次回配本には泉鏡花が控えている。乱歩なんてもう全集やアンソロジーが山ほど出ているから、あえてここに入れる必要なんてないと思うのだが、まあ売れなきゃ次につながらないので、看板的に入れるのは仕方ないのだろう。とりあえず普段は縁がない作家を読むきっかけになるのはありがたいし、編者ならではの切り口を愉しみたいところだ。

「鬼哭寺の一夜」
「水底の感 」
「夢十夜」
「永日小品(抄) 」
「一夜」
「吾輩は猫である(抄) 」
「琴のそら音」
「趣味の遺伝」
「倫敦塔」
「幻影の盾」
「薤露行」
「マクベスの幽霊に就いて」
「漱石幻妖句集」
収録作は以上。よく知られている作品から文庫初収録、詩や俳句まで含めた陣容である。面白いところでは『吾輩は猫である』の一部を切り取ったものもあり、そりゃずるいと思いつつ、読んでみてなるほどとも思ったり。
そもそも夏目漱石がそんなに幻想怪奇小説をい書いていたっけという気もするのだが、漱石自身はけっこうお化け好きだったということで、こうして一冊にまとまるだけの作品が残っている。
さすがにストレートな幻想怪奇小説という感じではなく、なんとなく奇妙に思える事象について綴った随筆的なものが多い印象である。それでも『こころ』や『三四郎』といった長編から受けるイメージとはかなり違う漱石を味わうことができるし、「夢十夜」や「永日小品(抄) 」あたりは夢や奇妙な話を扱う割にけっこう理屈っぽい語りで、ここかしこに作者の穏やかなる狂気を感じられて興味深い。
印象に残ったのは久しぶりの再読となる「趣味の遺伝」。戦死した友人の墓ですれ違った美女の正体を探る話で、漱石の探偵嫌いはよく知られているが、これはもう完全に探偵小説。主人公の「余」も探偵嫌いを呟きつつ、探偵活動を進めていく様がユーモラスだ。戦地から帰ってきた兵士たちを眺める場面から、巡り巡って美女にたどり着く展開もアンバランスで、とにかく変な熱量があって引き込まれる。
小説以外では「漱石幻妖句集」も面白い。中にはかなりえぐいイメージの句もあり油断できない。
ともあれ夏目漱石の幻想怪奇小説が、こうしてコンパクトにまとめられ、手軽に読めるようになるというのは喜ばしいかぎり。続刊にも期待したいところだ。
文豪の幻想小説・怪奇小説を集めたシリーズは過去にもいろいろあって、どうしてもラインナップは重なってくるものだが、夏目漱石というのは珍しい。今のところ江戸川乱歩、内田百閒と続き、次回配本には泉鏡花が控えている。乱歩なんてもう全集やアンソロジーが山ほど出ているから、あえてここに入れる必要なんてないと思うのだが、まあ売れなきゃ次につながらないので、看板的に入れるのは仕方ないのだろう。とりあえず普段は縁がない作家を読むきっかけになるのはありがたいし、編者ならではの切り口を愉しみたいところだ。

「鬼哭寺の一夜」
「水底の感 」
「夢十夜」
「永日小品(抄) 」
「一夜」
「吾輩は猫である(抄) 」
「琴のそら音」
「趣味の遺伝」
「倫敦塔」
「幻影の盾」
「薤露行」
「マクベスの幽霊に就いて」
「漱石幻妖句集」
収録作は以上。よく知られている作品から文庫初収録、詩や俳句まで含めた陣容である。面白いところでは『吾輩は猫である』の一部を切り取ったものもあり、そりゃずるいと思いつつ、読んでみてなるほどとも思ったり。
そもそも夏目漱石がそんなに幻想怪奇小説をい書いていたっけという気もするのだが、漱石自身はけっこうお化け好きだったということで、こうして一冊にまとまるだけの作品が残っている。
さすがにストレートな幻想怪奇小説という感じではなく、なんとなく奇妙に思える事象について綴った随筆的なものが多い印象である。それでも『こころ』や『三四郎』といった長編から受けるイメージとはかなり違う漱石を味わうことができるし、「夢十夜」や「永日小品(抄) 」あたりは夢や奇妙な話を扱う割にけっこう理屈っぽい語りで、ここかしこに作者の穏やかなる狂気を感じられて興味深い。
印象に残ったのは久しぶりの再読となる「趣味の遺伝」。戦死した友人の墓ですれ違った美女の正体を探る話で、漱石の探偵嫌いはよく知られているが、これはもう完全に探偵小説。主人公の「余」も探偵嫌いを呟きつつ、探偵活動を進めていく様がユーモラスだ。戦地から帰ってきた兵士たちを眺める場面から、巡り巡って美女にたどり着く展開もアンバランスで、とにかく変な熱量があって引き込まれる。
小説以外では「漱石幻妖句集」も面白い。中にはかなりえぐいイメージの句もあり油断できない。
ともあれ夏目漱石の幻想怪奇小説が、こうしてコンパクトにまとめられ、手軽に読めるようになるというのは喜ばしいかぎり。続刊にも期待したいところだ。
おお、漱石ファンでありましたか。漱石のこういう切り口は珍しいと思いましたが、ファンには周知のことだったのでしょうか。
ともあれなかなか楽しい一冊ではありました。全集、私もそのうち欲しいです。