- Date: Sat 21 08 2021
- Category: 国内作家 大阪圭吉
- Community: テーマ "推理小説・ミステリー" ジャンル "本・雑誌"
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大阪圭吉『村に医者あり』(盛林堂ミステリアス文庫)
大阪圭吉の『村に医者あり』を読む。大阪圭吉が地元の豊橋同盟新聞に依頼され、昭和十七年に『ここに家郷あり』という題名で連載した作品である。その翌年には単行本化されたが、それから八十年近くを経て、盛林堂ミステリアス文庫で『村に医者あり』と改題されて復刻された一冊。
戦時下の東京を急行列車で発ち、一路故郷を目指す一人の青年医師、倉松志氣太。その大きな理由は村で唯一の医院を開業する父の跡を継ぐためであったが、実はそれとは別の目的もあった。志氣太はこれまで大学の研究室に勤めていたが、狭い世界での技術者たることに物足りなくなり、規模はともかく、国のため国民のためになる仕事を為したいと熱望するようになったのだ。医師としての仕事はもちろんだが、それ以外の貢献はできないか。そんな夢があったのである……。

なんと大阪圭吉の長編である。残念なことに探偵小説ではなく、時局を反映した明朗小説、啓蒙小説といった内容なのだが、それでも大阪圭吉が本格探偵小説だけの作家ではなかったことが徐々に明らかになってきた昨今、これはこれでファン必読の一冊といってよいだろう。
というのも、本作はなかなかの力作なのである。地元を舞台にした地方紙での連載、しかも戦時下のことゆえ、どうしても国威高揚ものでお茶を濁したのかと勘ぐってしまいがちだが、意外にその色は薄く、しかも当時の田舎の様子、人々の暮らしなどが生き生きと描写されている。新聞連載という長丁場でありながら、構成も破綻せず予想以上にしっかりした出来だ。
まあ、構成が破綻していないのは、単に凝ったストーリーではないことも大きいだろう。倉松志氣太を中心とする村の若者たちが、日本の発展の一助になるべく活動する様子を描きつつ、サイドには志氣太とヒロインの淡いロマンスを添える。志氣太たちの前途には多少の障害もあるけれど、そこまでえげつないものではないし、彼らの真っ直ぐな情熱が人々を徐々に動かしてゆくという具合である。極めてストレートかつシンプルで、地元の人ならずとも非常に心地よく読める作品といえる。
志氣太があまりに真っ直ぐで意識の高いこともあり、現代の読者にはそれが息苦しく感じられるし、逆に胡散臭く感じられる嫌いなきにしもあらずだが(笑)、政治や自治体に対して庶民が完全な受け身であった時代、それこそ自分自身を高めていくことが国のためにも必要かつ重要なのだという啓蒙的な方向性は、著者の強いメッセージでもあったのだろう。
同時代の他の作家の作品を読むと、これが英米に対する偏見や差別に満ちていることもあるが、大阪圭吉は純粋に愛国心と向上心で書いている印象が強く、そういう意味でけっこう珍しいスタンスだったのではないだろうか。
戦時下の東京を急行列車で発ち、一路故郷を目指す一人の青年医師、倉松志氣太。その大きな理由は村で唯一の医院を開業する父の跡を継ぐためであったが、実はそれとは別の目的もあった。志氣太はこれまで大学の研究室に勤めていたが、狭い世界での技術者たることに物足りなくなり、規模はともかく、国のため国民のためになる仕事を為したいと熱望するようになったのだ。医師としての仕事はもちろんだが、それ以外の貢献はできないか。そんな夢があったのである……。

なんと大阪圭吉の長編である。残念なことに探偵小説ではなく、時局を反映した明朗小説、啓蒙小説といった内容なのだが、それでも大阪圭吉が本格探偵小説だけの作家ではなかったことが徐々に明らかになってきた昨今、これはこれでファン必読の一冊といってよいだろう。
というのも、本作はなかなかの力作なのである。地元を舞台にした地方紙での連載、しかも戦時下のことゆえ、どうしても国威高揚ものでお茶を濁したのかと勘ぐってしまいがちだが、意外にその色は薄く、しかも当時の田舎の様子、人々の暮らしなどが生き生きと描写されている。新聞連載という長丁場でありながら、構成も破綻せず予想以上にしっかりした出来だ。
まあ、構成が破綻していないのは、単に凝ったストーリーではないことも大きいだろう。倉松志氣太を中心とする村の若者たちが、日本の発展の一助になるべく活動する様子を描きつつ、サイドには志氣太とヒロインの淡いロマンスを添える。志氣太たちの前途には多少の障害もあるけれど、そこまでえげつないものではないし、彼らの真っ直ぐな情熱が人々を徐々に動かしてゆくという具合である。極めてストレートかつシンプルで、地元の人ならずとも非常に心地よく読める作品といえる。
志氣太があまりに真っ直ぐで意識の高いこともあり、現代の読者にはそれが息苦しく感じられるし、逆に胡散臭く感じられる嫌いなきにしもあらずだが(笑)、政治や自治体に対して庶民が完全な受け身であった時代、それこそ自分自身を高めていくことが国のためにも必要かつ重要なのだという啓蒙的な方向性は、著者の強いメッセージでもあったのだろう。
同時代の他の作家の作品を読むと、これが英米に対する偏見や差別に満ちていることもあるが、大阪圭吉は純粋に愛国心と向上心で書いている印象が強く、そういう意味でけっこう珍しいスタンスだったのではないだろうか。
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