- Date: Sun 29 08 2021
- Category: 国内作家 飛鳥井潔
- Community: テーマ "推理小説・ミステリー" ジャンル "本・雑誌"
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飛鳥井潔『詩人怪盗傳』(湘南探偵倶楽部)
前回の『もぎり観覧券の謎』に続いて飛鳥井潔の『詩人怪盗傳』を読む。『もぎり観覧券の謎』同様、鷺書房から刊行された情熱叢書の一冊を復刻したものだ。
本編はもちろんなのだが、ご丁寧に奥付後の広告ページまで復刻しており、それがまた興味深い。そこには情熱叢書の続刊として岡本綺堂や三上於蒐吉、鷲尾雨工といった、けっこう大物の作品も紹介されており、内容紹介を読むと捕物帳から恋愛小説、時代小説と幅広い。ただ、すべて他社既刊本の再刊であったり、連載をまとめたようなものなので、まだ娯楽に飢えていた時代の貴重なエンタメだから需要はあったと思うが、売りとしては弱いようにも感じられる。まあ、だからこそ当時まだ実績がなかった飛鳥井潔にも、書き下ろしのチャンスが巡ってきた可能性はあるのだが。

こんな話。昭和二十一年十一月三日、新憲法が交付されたその日の夜。戦後のどさくさに紛れて業績を伸ばした富士越土木の社長、富士越泰治が自宅で就寝していたときである。泰治は突然、覆面をした三人の強盗に襲われる。ところが不思議なことに、強盗たちは奪った金をその場で燃やしてしまい、そのまま家を立ち去ってしまう。警察は富士越に恨みを持つ長柄豹馬という男に目星をつけて捜査を進めるが……。
『もぎり観覧券の謎』で登場した日下部廉太郎が本作でも探偵役を務める。形としてはシリーズものの探偵小説であり、ストーリーもそれらしく進むのだが、謎解き興味は薄い。冒頭に怪盗を登場させてくるので、ではいわゆるリュパンのような冒険ものなのかと思うとそれもまた違う。
それだけの要素があれば十分に探偵小説と言ってもいいではないかという向きもあろうが、なんというか探偵小説の本質のようなものが感じられないのだ。そう感じる理由は物語のあちらこちらに探偵小説以外の要素、それは復員兵や労働階級へのアプローチだったり、恋愛要素だったり、そちらへのメッセージ性が強くなっているからだろう。
著者としてはもちろん探偵小説として面白くしようという気持ちもあると思うが、それ以上に当時の労働者階級に対してエールを送ることが第一義になっていると感じた次第。
なお、本作には短編「給料百萬圓紛失事件」も併録されている。こちらはお腹を壊した会社の経理課社員が、トイレに行っている隙に全社員の給料を盗まれるという話で、こちらも謎解きは他愛ないが、著者の労働者への目はやはり温かい。
本編はもちろんなのだが、ご丁寧に奥付後の広告ページまで復刻しており、それがまた興味深い。そこには情熱叢書の続刊として岡本綺堂や三上於蒐吉、鷲尾雨工といった、けっこう大物の作品も紹介されており、内容紹介を読むと捕物帳から恋愛小説、時代小説と幅広い。ただ、すべて他社既刊本の再刊であったり、連載をまとめたようなものなので、まだ娯楽に飢えていた時代の貴重なエンタメだから需要はあったと思うが、売りとしては弱いようにも感じられる。まあ、だからこそ当時まだ実績がなかった飛鳥井潔にも、書き下ろしのチャンスが巡ってきた可能性はあるのだが。

こんな話。昭和二十一年十一月三日、新憲法が交付されたその日の夜。戦後のどさくさに紛れて業績を伸ばした富士越土木の社長、富士越泰治が自宅で就寝していたときである。泰治は突然、覆面をした三人の強盗に襲われる。ところが不思議なことに、強盗たちは奪った金をその場で燃やしてしまい、そのまま家を立ち去ってしまう。警察は富士越に恨みを持つ長柄豹馬という男に目星をつけて捜査を進めるが……。
『もぎり観覧券の謎』で登場した日下部廉太郎が本作でも探偵役を務める。形としてはシリーズものの探偵小説であり、ストーリーもそれらしく進むのだが、謎解き興味は薄い。冒頭に怪盗を登場させてくるので、ではいわゆるリュパンのような冒険ものなのかと思うとそれもまた違う。
それだけの要素があれば十分に探偵小説と言ってもいいではないかという向きもあろうが、なんというか探偵小説の本質のようなものが感じられないのだ。そう感じる理由は物語のあちらこちらに探偵小説以外の要素、それは復員兵や労働階級へのアプローチだったり、恋愛要素だったり、そちらへのメッセージ性が強くなっているからだろう。
著者としてはもちろん探偵小説として面白くしようという気持ちもあると思うが、それ以上に当時の労働者階級に対してエールを送ることが第一義になっていると感じた次第。
なお、本作には短編「給料百萬圓紛失事件」も併録されている。こちらはお腹を壊した会社の経理課社員が、トイレに行っている隙に全社員の給料を盗まれるという話で、こちらも謎解きは他愛ないが、著者の労働者への目はやはり温かい。
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