- Date: Sun 26 09 2021
- Category: 海外作家 ヤンソン(トーベ)
- Community: テーマ "幻想文学" ジャンル "本・雑誌"
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トーベ・ヤンソン『トーベ・ヤンソン短篇集』(ちくま文庫)
ムーミンの作者として有名なトーベ・ヤンソンを描いた映画『トーベ』が10月から公開されるというので、長らく積んであった、ちくま文庫の『トーベ・ヤンソン短篇集』を読んでみる。まずは収録作。
〈子ども時代〉
「夏について」
「往復書簡」
「カリン、わが友」
〈創作〉
「森」
「猿」
「愛の物語」
「自然の中の芸術」
「リス」
「絵」
〈奇妙な体験〉
「嵐」
「ショッピング」
「植物園」
〈旅〉
「汽車の旅」
「見知らぬ街」
「時間の感覚」
「リヴィエラへの旅」
「軽い手荷物の旅」
〈老いと死の予感〉
「聴く女」
「事前警告」
「雨」

これは読み応えのある短篇集だ。ガツンという手応えのあるタイプではなく、いつの間にかじわじわと染みてくるタイプ。静かな文体の下で激しく渦巻いている著者の思想や感情、感覚を味わう、そんな短篇集といっていいだろう。
小説だけでなく画家としても活躍したヤンソンだが、自分のアーティストとしてのセンスを信じ、それをそのまま作品に体現しているような印象を受けた。ムーミン・シリーズなどはファンタジー世界なので、さまざまな工夫や比喩を盛り込んでいるが、その後に書かれた大人向けの作品では自分の体験や思想をベースに、感じるままに物語を流している感じである。
文章も奇をてらわず、淡々とした描写、繊細で透明感のある表現だ。一見、わかりやすい文章に思えるが、決して親切な文章ではない。したがって読者はしっかり理解しながら読み進めないと、あるいは行間を読み込んでいかないと、ヤンソンの感情を共感することはできないだろう。
なお、本書では作品ごとに〈子ども時代〉〈創作〉といったテーマが設けられているのが親切設計でありがたい。小説としての技巧は統一されたイメージはあるが、テーマ別でみると意外に印象が異なるのである。たとえば〈子ども時代〉の作品は、役柄をムーミン一家に変えても通用しそうな世界観で、子供の不確かさを全面に押し出し、〈創作〉ではアーティストとしての冷徹な視点と熱量が相混ぜになった、複雑な著者の感情が垣間見える。
個人的には、〈子ども時代〉の「夏について」、「往復書簡」、「カリン、わが友」はどれも素晴らしいし、〈旅〉の「汽車の旅」、「軽い手荷物の旅」も好み。しかし、本書の作品は単品でどうこうよりも、ある程度まとめて読むことで感じるところも大きくなるように思う。その意味でもテーマの意味は大きく、編者のお手柄といえるだろう。
余談だが、あまりミステリを読んでいるときには思わないのだけれど、ムーミン・シリーズや本書を読むと、無性にフィンランドに行きたくなってくるのは不思議である。
〈子ども時代〉
「夏について」
「往復書簡」
「カリン、わが友」
〈創作〉
「森」
「猿」
「愛の物語」
「自然の中の芸術」
「リス」
「絵」
〈奇妙な体験〉
「嵐」
「ショッピング」
「植物園」
〈旅〉
「汽車の旅」
「見知らぬ街」
「時間の感覚」
「リヴィエラへの旅」
「軽い手荷物の旅」
〈老いと死の予感〉
「聴く女」
「事前警告」
「雨」

これは読み応えのある短篇集だ。ガツンという手応えのあるタイプではなく、いつの間にかじわじわと染みてくるタイプ。静かな文体の下で激しく渦巻いている著者の思想や感情、感覚を味わう、そんな短篇集といっていいだろう。
小説だけでなく画家としても活躍したヤンソンだが、自分のアーティストとしてのセンスを信じ、それをそのまま作品に体現しているような印象を受けた。ムーミン・シリーズなどはファンタジー世界なので、さまざまな工夫や比喩を盛り込んでいるが、その後に書かれた大人向けの作品では自分の体験や思想をベースに、感じるままに物語を流している感じである。
文章も奇をてらわず、淡々とした描写、繊細で透明感のある表現だ。一見、わかりやすい文章に思えるが、決して親切な文章ではない。したがって読者はしっかり理解しながら読み進めないと、あるいは行間を読み込んでいかないと、ヤンソンの感情を共感することはできないだろう。
なお、本書では作品ごとに〈子ども時代〉〈創作〉といったテーマが設けられているのが親切設計でありがたい。小説としての技巧は統一されたイメージはあるが、テーマ別でみると意外に印象が異なるのである。たとえば〈子ども時代〉の作品は、役柄をムーミン一家に変えても通用しそうな世界観で、子供の不確かさを全面に押し出し、〈創作〉ではアーティストとしての冷徹な視点と熱量が相混ぜになった、複雑な著者の感情が垣間見える。
個人的には、〈子ども時代〉の「夏について」、「往復書簡」、「カリン、わが友」はどれも素晴らしいし、〈旅〉の「汽車の旅」、「軽い手荷物の旅」も好み。しかし、本書の作品は単品でどうこうよりも、ある程度まとめて読むことで感じるところも大きくなるように思う。その意味でもテーマの意味は大きく、編者のお手柄といえるだろう。
余談だが、あまりミステリを読んでいるときには思わないのだけれど、ムーミン・シリーズや本書を読むと、無性にフィンランドに行きたくなってくるのは不思議である。
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