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探偵小説三昧

日々,探偵小説を読みまくり、その感想を書き散らかすブログ


マイケル・ギルバート『捕虜収容所の死』(創元推理文庫)

 時は一九四三年七月。イタリアの第一二七捕虜収容所では、英軍捕虜の手で密かに脱出用トンネルが掘り進められていた。ところがそのトンネルで、収容所側のスパイ容疑がかかっていたギリシャ人幌の死体が発見される。トンネルの入り口を開けるには四人の手が必要であり、ある種の密室的状況であった。ともかくトンネル発覚を怖れた捕虜たちは、とりあえず死体を別のトンネルに移し、事故を偽装することにした。だが、収容所側はこれを殺人と断定し、一人の捕虜を犯人として処刑しようとする。捕虜側は一人の男を探偵役に任命し、この危機を回避しようとするが……。

 遅ればせながらマイケル・ギルバートの『捕虜収容所の死』を読む。
 いや、すごいわ、これは。こんな傑作がまだ残っていたのかという驚き。本格ミステリと冒険小説がここまで見事に融合した作品は記憶にない。本格ミステリと冒険小説のどちらかが味つけになっている例はあるかもしれない。だが、本作は片方だけの要素で書かれたとしても十分成立するだろう。それくらい素晴らしい出来だ。

 例えば、収容所を舞台にした本格ミステリの部分では、ただの犯人探しだけでなく、どのように犯行が行われたかというハウダニット的興味、容疑者が処刑されるというデッドラインを設けることでサスペンスの効果もいっそう高めている。さらに伏線の張り方が巧い。探偵役が事件のカギに気づく部分などは、あまりの巧さに感動すらしたほどだ。
 同じように収容所脱走をテーマにした冒険小説的部分でも、トンネルの作り方、土砂の処理方法、脱走後の対処など、ストレートな冒険小説顔負けの詳しさ。おまけに捕虜同士の確執や当時の戦局を絡めるなどの手際も素晴らしい。思わず映画『大脱走』を思いだしたが、本書の方が十年以上先に世に出ているのだ。
 そしてこれが最も肝心なのだが、これら数多くのエピソードが恐ろしいくらい無駄なく融合しているという事実。個人的にはベストテン級。超おすすめの一冊である。

 なお、最後の二章は、構成的にどうかな、という気はする。真相が蛇足のように語られるのはあまり美しいとはいえず、あくまでこの物語は、収容所できっちりカタをつけてくれた方がよかった。そこだけが残念。

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sugata

Author:sugata
ミステリならなんでも好物。特に翻訳ミステリと国内外問わずクラシック全般。
四半世紀勤めていた書籍・WEB等の制作会社を辞め、2021年よりフリーランスの編集者&ライターとしてぼちぼち活動中。

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