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甲賀三郎『強盗殺人実話 戦前の凶悪犯罪事件簿』(河出書房新社)
甲賀三郎の『強盗殺人実話 戦前の凶悪犯罪事件簿』を読む。明治から大正にかけて起こった実際の事件を読み物として甲賀が仕上げたもの。まずは収録作。
「お茶の水おこの殺し」
「二本榎惨劇」
「小名木川首無死体」
「お艶殺し」
「小石川七人斬り」
「鈴弁殺し」
「名古屋駅行李詰め屍体」
「大井堀事件 疑問の十月二日」
「女優一家の怪死」
「ピス健」

具体的だが妙にそそるタイトルが並んでおり、いかにも実話読み物といった雰囲気。当時の実話は今でいうワイドショー的な興味で読まれており、中でも人気があるのはやはり犯罪実話。とりわけセンセーショナルで猟奇的な事件は注目を集め、こういうのは今も昔も変わらないようだ。
したがって甲賀三郎が書いた犯罪読み物ではあるが、特にミステリ的な興味で書かれたものではない。とはいえ大きな事件などが起こると、新聞や雑誌はけっこう探偵作家たちに真相を推理する記事を依頼したようで、それこそ長編の実話もの『支倉事件』を発表していた甲賀はさぞ人気も高かったのだろう。
ただ、センセーショナルな事件を集めたとは思うのだが、読み物としてもそこまで面白いものではない。甲賀も堅苦しくならないよう会話の部分を増やすなど工夫はしているようだが、思ったよりは淡白な印象を受けた。
結局、いま読んで面白いのは、やはり当時の風俗や警察の捜査の様子などを描いた部分だろう。特に警察の強引すぎる捜査がいたって普通のこととして書かれているのは恐ろしいかぎりだ。状況証拠どころかとっかかりが一つあるだけで容疑者と看做し、警察に拘留し、拷問もどきで自白に追いやる時代である。もちろん冤罪などは当たり前。社会主義国家や独裁国家では探偵小説は発展しない、みたいなことをどこかで読んだことがあるが、日本もこの時代が続いていたら、ここまでミステリが発展することもなかっただろう。
なお、本書は河出書房新社が刊行している〈レトロ図書館〉の一冊なのだが、新刊が出なくなって久しい。河出文庫版のKAWADEノスタルジック〈探偵・怪奇・幻想シリーズ〉もそうだが、どちらも2019年を最後に中断している模様である。2017年ごろは凄い勢いだっただけに残念なことだが、せめて版元は続けるのか終了したのかアナウンスしてくれないものだろうか。中途半端なままだとなんとも気持ち悪いんだよねぇ。
「お茶の水おこの殺し」
「二本榎惨劇」
「小名木川首無死体」
「お艶殺し」
「小石川七人斬り」
「鈴弁殺し」
「名古屋駅行李詰め屍体」
「大井堀事件 疑問の十月二日」
「女優一家の怪死」
「ピス健」

具体的だが妙にそそるタイトルが並んでおり、いかにも実話読み物といった雰囲気。当時の実話は今でいうワイドショー的な興味で読まれており、中でも人気があるのはやはり犯罪実話。とりわけセンセーショナルで猟奇的な事件は注目を集め、こういうのは今も昔も変わらないようだ。
したがって甲賀三郎が書いた犯罪読み物ではあるが、特にミステリ的な興味で書かれたものではない。とはいえ大きな事件などが起こると、新聞や雑誌はけっこう探偵作家たちに真相を推理する記事を依頼したようで、それこそ長編の実話もの『支倉事件』を発表していた甲賀はさぞ人気も高かったのだろう。
ただ、センセーショナルな事件を集めたとは思うのだが、読み物としてもそこまで面白いものではない。甲賀も堅苦しくならないよう会話の部分を増やすなど工夫はしているようだが、思ったよりは淡白な印象を受けた。
結局、いま読んで面白いのは、やはり当時の風俗や警察の捜査の様子などを描いた部分だろう。特に警察の強引すぎる捜査がいたって普通のこととして書かれているのは恐ろしいかぎりだ。状況証拠どころかとっかかりが一つあるだけで容疑者と看做し、警察に拘留し、拷問もどきで自白に追いやる時代である。もちろん冤罪などは当たり前。社会主義国家や独裁国家では探偵小説は発展しない、みたいなことをどこかで読んだことがあるが、日本もこの時代が続いていたら、ここまでミステリが発展することもなかっただろう。
なお、本書は河出書房新社が刊行している〈レトロ図書館〉の一冊なのだが、新刊が出なくなって久しい。河出文庫版のKAWADEノスタルジック〈探偵・怪奇・幻想シリーズ〉もそうだが、どちらも2019年を最後に中断している模様である。2017年ごろは凄い勢いだっただけに残念なことだが、せめて版元は続けるのか終了したのかアナウンスしてくれないものだろうか。中途半端なままだとなんとも気持ち悪いんだよねぇ。
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