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探偵小説三昧

日々,探偵小説を読みまくり、その感想を書き散らかすブログ


マイクル・コナリー『鬼火(下)』(講談社文庫)

 マイクル・コナリーの『鬼火』を読む。
 内容に入る前に少し注文を書いておく。これは以前にも一度書いたと思うのだが、コナリーの作品を上下巻にするのはそろそろ辞めましょうよ、講談社さん。分厚い作品なら仕方ないけれど、この程度で二分冊にするのは読者にとって不便でしかないし、上巻でやめる一見さんもいるかもしれない。二分冊にしないと儲からないのであれば、一冊でその分の定価をつければいいのである。どうぞご一考を。

 鬼火(下)

 さて、内容に話を戻そう。まずはストーリーから。
 ボッシュが新米刑事の頃、パートナーを組んだ恩師とも言える元刑事が亡くなった。葬儀に参加したボッシュは未亡人から夫が自宅に保管していた資料を渡されるが、それはなんと二十年前にロスで起こった未解決の殺人事件だった。ボッシュは夜勤刑事のバラードに協力を求め、捜査を進めていく。
 一方、ボッシュは弁護士ミッキー・ハラーが手がける判事暗殺事件裁判の調査も手伝い、バラードはバラードでホームレスの焼死事件も追っていた。それぞれの捜査が進むなか、三つの事件に関連性が見出されていく……。

 正統派の警察小説。社会的な問題定義などは以前の作品ほど強く打ち出されてはいないけれど、三つの事件をそれぞれに展開し、終盤でまとめあげるテクニックがさすが。エンタメとしての完成度が高く、見事としか言いようがないのだが、本作はそれに加えてラストが面白い。
 面白いというと語弊があるけれど、本作はボッシュ・シリーズには珍しいタイプの悪役が登場し、この敵とのラストでの対決が、これまたシリーズには珍しいかっこよさなのである(笑)。次回作へのフリもあり、一見さんにもオススメしやすいエンタメ感満点の一作と言えるだろう。

 ちょっと気になったのは、シリーズのファンに向けた部分か。まあ、バラードの方はよい。バラードと上司オリバスとの対立に一応の決着をつけており、今後ももう一波乱ある可能性もないことはないが、まずはスカッとしたファンも多いことだろう。
 問題はボッシュだ。近作でも年齢ゆえの衰えがクローズアップされているが、本作では思いもかけぬ病魔がボッシュを襲う。老化だけでも十分だろうに、ここへきて命に関わる病気を持ってくる著者の意地悪なことよ。一つ言えるのは、これでボッシュとバラードの師弟関係はますます加速するだろうし、その先にはボッシュの娘マディの参戦があるのだろうということ。ううむ、読みたいような読みたくないような。

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sugata

Author:sugata
ミステリならなんでも好物。特に翻訳ミステリと国内外問わずクラシック全般。
四半世紀勤めていた書籍・WEB等の制作会社を辞め、2021年よりフリーランスの編集者&ライターとしてぼちぼち活動中。

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