- Date: Fri 26 11 2021
- Category: 海外作家 ジャクソン(ホリー)
- Community: テーマ "推理小説・ミステリー" ジャンル "本・雑誌"
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ホリー・ジャクソン『自由研究には向かない殺人』(創元推理文庫)
今年の話題作をこのところポツポツと読んでいるが、本日もその一環。ホリー・ジャクソンの『自由研究には向かない殺人』。
まずはストーリー。
ピップはイギリスの小さな地方都市に住む、受験を控えた女子高校生。実父が早くに亡くなった後、母親はナイジェリア人の子持ちの男性と再婚。ピップは母と肌の色の異なる義理の父、弟の四人で暮らしていた。
そんなある日、ピップは受験資格の一つである自由研究のテーマとして、五年前に町で起こった十七歳の少女アンディの失踪事件を取り上げることにする。当時の交際相手の少年サルが彼女を殺害し、自殺したとされる事件だ。サルの人柄を知るピップは彼が犯人だとは思えず、彼の無実を証明しようと町の人間にインタビューを開始する。するとアンディの秘密が徐々に明らかになり、同時にピップの身近な人間が容疑者として浮かび上がり……。

なるほど。これは評判がよいのも頷ける。根幹はオーソドックスながら、非常に上質で爽快な青春ミステリだ。
主人公のピップが高校生なので、最初は中高生向きのライトなイメージもあるが、実は事件自体はかなり陰鬱。表面的には穏やかな街も、ひと皮めくればドラッグなどの問題や小さな町ならではの差別やいじめ問題が蔓延っている。ピップは調査を進めながらそんな闇に直面し、ときには落ち込み、ときには怒りを覚えながらも、まっすぐに自分の信じた道を突き進む。
とにかくピップが魅力的だ。明るく前向きな性格、優しさ、頭の良さ、といったいかにも面だけでなく、正義や真実に対して真摯に向き合うところがよい。現代っ子らしい割り切りもあるし、ときには強引な手も使うが、基本的には真面目で純粋な少女であり、彼女のそうしたキャラクターが、陰鬱なはずの物語を軽やかで爽やかな読み物に昇華させているのだろう。
ピップのキャラクターと語り口が良いので、ほぼ本作の成功は約束されたようなものだが、ストーリーや謎解きも思った以上にしっかりしている。女子高生が探偵役のミステリときくと、普通はスリラーや冒険要素をメインにしたタイプかなと思ったりもするが、本作は違う。むしろフレンチ警部もののようなオーソドックスな本格ミステリであり、足を使って事実を集め、推理を積み重ね、試行錯誤していくタイプなのだ。
その流れのなかでアンディだけでなく友人や知人の秘密も徐々に明らかになっていく。いわばプチサプライズがテンポよく展開されるという寸法だが、このプチサプライズの組み立てが上手くて、けっこうな長丁場の小説なのに退屈させることがない。ラストの意外な犯人とどんでん返しなども過不足なく、実に良い感じである。
ただ、警察が最初からきちんと捜査していれば、普通にあっけなく解決した事件ではある。結局のところ、中身はほんとにオーソドックスなミステリなのだが、捜査する主体を女子高生に変えることで、読み物としての魅力がアップしたのはもちろんだが、警察が介入しないゆえのジレンマやハードルが生まれ、ミステリとしての部分にも大きく貢献しているのがミソだろう。
ライトノベルとはまたひと味違った、「大人のための青春ミステリ」である。
まずはストーリー。
ピップはイギリスの小さな地方都市に住む、受験を控えた女子高校生。実父が早くに亡くなった後、母親はナイジェリア人の子持ちの男性と再婚。ピップは母と肌の色の異なる義理の父、弟の四人で暮らしていた。
そんなある日、ピップは受験資格の一つである自由研究のテーマとして、五年前に町で起こった十七歳の少女アンディの失踪事件を取り上げることにする。当時の交際相手の少年サルが彼女を殺害し、自殺したとされる事件だ。サルの人柄を知るピップは彼が犯人だとは思えず、彼の無実を証明しようと町の人間にインタビューを開始する。するとアンディの秘密が徐々に明らかになり、同時にピップの身近な人間が容疑者として浮かび上がり……。

なるほど。これは評判がよいのも頷ける。根幹はオーソドックスながら、非常に上質で爽快な青春ミステリだ。
主人公のピップが高校生なので、最初は中高生向きのライトなイメージもあるが、実は事件自体はかなり陰鬱。表面的には穏やかな街も、ひと皮めくればドラッグなどの問題や小さな町ならではの差別やいじめ問題が蔓延っている。ピップは調査を進めながらそんな闇に直面し、ときには落ち込み、ときには怒りを覚えながらも、まっすぐに自分の信じた道を突き進む。
とにかくピップが魅力的だ。明るく前向きな性格、優しさ、頭の良さ、といったいかにも面だけでなく、正義や真実に対して真摯に向き合うところがよい。現代っ子らしい割り切りもあるし、ときには強引な手も使うが、基本的には真面目で純粋な少女であり、彼女のそうしたキャラクターが、陰鬱なはずの物語を軽やかで爽やかな読み物に昇華させているのだろう。
ピップのキャラクターと語り口が良いので、ほぼ本作の成功は約束されたようなものだが、ストーリーや謎解きも思った以上にしっかりしている。女子高生が探偵役のミステリときくと、普通はスリラーや冒険要素をメインにしたタイプかなと思ったりもするが、本作は違う。むしろフレンチ警部もののようなオーソドックスな本格ミステリであり、足を使って事実を集め、推理を積み重ね、試行錯誤していくタイプなのだ。
その流れのなかでアンディだけでなく友人や知人の秘密も徐々に明らかになっていく。いわばプチサプライズがテンポよく展開されるという寸法だが、このプチサプライズの組み立てが上手くて、けっこうな長丁場の小説なのに退屈させることがない。ラストの意外な犯人とどんでん返しなども過不足なく、実に良い感じである。
ただ、警察が最初からきちんと捜査していれば、普通にあっけなく解決した事件ではある。結局のところ、中身はほんとにオーソドックスなミステリなのだが、捜査する主体を女子高生に変えることで、読み物としての魅力がアップしたのはもちろんだが、警察が介入しないゆえのジレンマやハードルが生まれ、ミステリとしての部分にも大きく貢献しているのがミソだろう。
ライトノベルとはまたひと味違った、「大人のための青春ミステリ」である。
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