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リチャード・オスマン『木曜殺人クラブ』(ハヤカワミステリ)
年末ランキングで気になった作品をぼちぼち読んでいこうと、リチャード・オスマンの『木曜殺人クラブ』に取りかかる。
こんな話。イギリスの高級老後施設のクーパーズ・チェイス。移住してきた老人はその暮らしをそれぞれに楽しんでいた。ところが敷地内にある墓地と庭園をつぶして、新たな棟を開発しようという計画が持ち上がった。対立する経営陣と入居者たちだったが、やがて経営陣の一人で、建設を担っていたトニーが殺されるという事件が起こる。犯人は開発に反対す住人なのか、それとも利益をめぐって内輪でも対立している経営側のひとりなのか。
そんななか、警察に頼らず事件を解決しようとする住人グループがいた。その名も〈木曜殺人クラブ〉。元女性警部のペニーと友人のエリザベスと立ち上げた犯罪研究の同好会だったが、いまは寝たきりであるベニーの意志を受け継ぎ、エリザベスをリーダーとして元精神科医や元労働運動家、元看護婦が加わっていた。彼らは策略を弄して警官からも情報を入手し、事件解決に乗り出すが……。

老人たちの溌剌とした活躍が繰り広げられ、これは実に楽しい一冊。先日読んだ『自由研究には向かない殺人』の対極にあるような設定だが、それでいてユーモラスで暖かな雰囲気は共通するものがある。ラストはほろ苦いものも感じさせつつ、静かな感動があり、読後の印象はなかなか心地よい。
上手いのはなんといってもキャラクター造形だろう。木曜殺人クラブの面々だけでなく、彼らの家族、友人、警察官、施設の関係者に至るまで、非常に事細かく描写されている。
見た目や心理描写もあるが、行動を通して心情を伝えるのが上手く、どちらかというとハードボイルドの手法に近いかもしれない。走りすぎてわかりにくい場面もあるけれど、そういう心情の原因になっていたものが終盤で明らかになると、非常に納得度が高い。
ただ、惜しい点もある。タイトルからもわかるように本作はクリスティの『火曜クラブ』ひいてはミス・マープルものへのオマージュもあると思うのだが、謎解きミステリとしてはその域に至っていない。
まず事件が意外と複雑というか、大小いくつかの謎が絡み合っているのだが、それほど効果的とは思えない。最初は真っ直ぐで引きこまれるが、中盤あたりから各事件の要素が浮き彫りになってきて、妙にとっちらかった印象になってしまう。物語が広がってワクワクするというよりは、芯になる事件がぼやけてしまった、といえば言い過ぎか。描写においても場面転換を多用したり、人称を混在させるなどのしているが、そのせいもけっこう大きいだろう。
著者の狙いや、あえてそうしているのは理解できるが、もう少しネタを絞り込んでスッキリさせ他方がラストのサプライズは効果的だし、もっと落ち着いて読ませるほうが、全体の雰囲気にマッチしてよかったのではないだろうか。
と気になる点も色々揚げたけれど、先に書いたようにキャラクターや雰囲気は非常によい。舞台装置といいキャラクター造形といい、とても新人作家とは思えないほどだ。次回作が出るならぜひ邦訳も期待したい。
こんな話。イギリスの高級老後施設のクーパーズ・チェイス。移住してきた老人はその暮らしをそれぞれに楽しんでいた。ところが敷地内にある墓地と庭園をつぶして、新たな棟を開発しようという計画が持ち上がった。対立する経営陣と入居者たちだったが、やがて経営陣の一人で、建設を担っていたトニーが殺されるという事件が起こる。犯人は開発に反対す住人なのか、それとも利益をめぐって内輪でも対立している経営側のひとりなのか。
そんななか、警察に頼らず事件を解決しようとする住人グループがいた。その名も〈木曜殺人クラブ〉。元女性警部のペニーと友人のエリザベスと立ち上げた犯罪研究の同好会だったが、いまは寝たきりであるベニーの意志を受け継ぎ、エリザベスをリーダーとして元精神科医や元労働運動家、元看護婦が加わっていた。彼らは策略を弄して警官からも情報を入手し、事件解決に乗り出すが……。

老人たちの溌剌とした活躍が繰り広げられ、これは実に楽しい一冊。先日読んだ『自由研究には向かない殺人』の対極にあるような設定だが、それでいてユーモラスで暖かな雰囲気は共通するものがある。ラストはほろ苦いものも感じさせつつ、静かな感動があり、読後の印象はなかなか心地よい。
上手いのはなんといってもキャラクター造形だろう。木曜殺人クラブの面々だけでなく、彼らの家族、友人、警察官、施設の関係者に至るまで、非常に事細かく描写されている。
見た目や心理描写もあるが、行動を通して心情を伝えるのが上手く、どちらかというとハードボイルドの手法に近いかもしれない。走りすぎてわかりにくい場面もあるけれど、そういう心情の原因になっていたものが終盤で明らかになると、非常に納得度が高い。
ただ、惜しい点もある。タイトルからもわかるように本作はクリスティの『火曜クラブ』ひいてはミス・マープルものへのオマージュもあると思うのだが、謎解きミステリとしてはその域に至っていない。
まず事件が意外と複雑というか、大小いくつかの謎が絡み合っているのだが、それほど効果的とは思えない。最初は真っ直ぐで引きこまれるが、中盤あたりから各事件の要素が浮き彫りになってきて、妙にとっちらかった印象になってしまう。物語が広がってワクワクするというよりは、芯になる事件がぼやけてしまった、といえば言い過ぎか。描写においても場面転換を多用したり、人称を混在させるなどのしているが、そのせいもけっこう大きいだろう。
著者の狙いや、あえてそうしているのは理解できるが、もう少しネタを絞り込んでスッキリさせ他方がラストのサプライズは効果的だし、もっと落ち着いて読ませるほうが、全体の雰囲気にマッチしてよかったのではないだろうか。
と気になる点も色々揚げたけれど、先に書いたようにキャラクターや雰囲気は非常によい。舞台装置といいキャラクター造形といい、とても新人作家とは思えないほどだ。次回作が出るならぜひ邦訳も期待したい。
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