- Date: Thu 09 12 2021
- Category: 国内作家 笹沢左保
- Community: テーマ "推理小説・ミステリー" ジャンル "本・雑誌"
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笹沢左保『白い悲鳴』(祥伝社文庫)
なんとなく笹沢左保の短篇集『白い悲鳴』を読んでみる。二年ほど前に文庫化されたものなので、それほど悪くはないだろうと思ったのだが、ちょっと残念な一冊であった。まずは収録作。
「白い悲鳴」
「落日に吼える」
「倦怠の海」
「拒絶の影」

どの作品も金銭や痴情のもつれをベースにしつつ、サスペンスと男女のドラマで読ませる。濡れ場が必ず一回はあるところなど、いかにも火曜サスペンスドラマ然とした内容であり、昭和の大衆雑誌的なノリでもある。
とはいえ、そういった雰囲気は当時の流行であり、ニーズでもあるから、個人的にはそれほど気にならない。ただ、ミステリとしての弱さはいかんともしがたい。
「白い悲鳴」は会社の金庫から現金八百万円が盗まれた事件で、犯人と疑われ、クビになった経理部の男性が主人公。その恨みから、本当に会社から現金を盗もうと計画するが、実はそれは真犯人を捕まえるための罠であった。
導入と設定は悪くないが、あからさますぎる伏線がひとつあって、それでぶち壊しという感じである。ただ管理人の年代ならすぐにわかるだろうが、若い人にはピンとこないかも。
自殺したと思われる兄の死の真相を探るのが「落日に吼える」。兄と離婚した義姉に再会した主人公は、たちまち魅了されるが、次第に彼女の様子が怪しく思えて……。これも導入は悪くなく、離婚の理由が事件に関係してくるのが読みどころではあるが、いかんせん予想されやすくインパクトは弱い。
「倦怠の海」はピアノ教師の女性が主人公。三年間つき合っていた男と別れたその夜、近所で通り魔事件が起こる。犯人らしき男はなんと主人公宅のベランダから侵入し、部屋を抜けて逃走。やがて彼女は休暇先で、その犯人らしい男と再会するのだが……。
こちらもまた導入は面白い。さすがに当時の流行作家、お話作りの巧さには実に感心する。ただ、本作についてはプロット、特に中盤以降の展開が雑で強引すぎるのがいただけない。
本書で一番よかったのが「拒絶の影」。オープンしたばかりのホテルで、経営者の娘がボーイフレンドと喧嘩しして屋上から突き落とし、運悪く下にいた女性をも巻き込んでしまう。経営者は関係者の口を金で封じようとするが、客の一人だけはどうしても金を受け取らない。ただ、なぜか警察にもいわないという……。
真相の意外性は十分。経営者が金で次々と目撃者を買収してゆくが、一人だけ拒絶され、それでいて警察にもいわないというので、余計に疑心暗鬼になってゆく展開が面白い。途中から男が只者ではない雰囲気を醸し出し、ミステリアスな感じも悪くない。
以上、甘めに見て一勝二敗一引き分けぐらいの感じか。ミステリとしては弱いが、サクッと読めるし、昭和中頃の暮らしや文化を知りたい向きはどうぞ。
「白い悲鳴」
「落日に吼える」
「倦怠の海」
「拒絶の影」

どの作品も金銭や痴情のもつれをベースにしつつ、サスペンスと男女のドラマで読ませる。濡れ場が必ず一回はあるところなど、いかにも火曜サスペンスドラマ然とした内容であり、昭和の大衆雑誌的なノリでもある。
とはいえ、そういった雰囲気は当時の流行であり、ニーズでもあるから、個人的にはそれほど気にならない。ただ、ミステリとしての弱さはいかんともしがたい。
「白い悲鳴」は会社の金庫から現金八百万円が盗まれた事件で、犯人と疑われ、クビになった経理部の男性が主人公。その恨みから、本当に会社から現金を盗もうと計画するが、実はそれは真犯人を捕まえるための罠であった。
導入と設定は悪くないが、あからさますぎる伏線がひとつあって、それでぶち壊しという感じである。ただ管理人の年代ならすぐにわかるだろうが、若い人にはピンとこないかも。
自殺したと思われる兄の死の真相を探るのが「落日に吼える」。兄と離婚した義姉に再会した主人公は、たちまち魅了されるが、次第に彼女の様子が怪しく思えて……。これも導入は悪くなく、離婚の理由が事件に関係してくるのが読みどころではあるが、いかんせん予想されやすくインパクトは弱い。
「倦怠の海」はピアノ教師の女性が主人公。三年間つき合っていた男と別れたその夜、近所で通り魔事件が起こる。犯人らしき男はなんと主人公宅のベランダから侵入し、部屋を抜けて逃走。やがて彼女は休暇先で、その犯人らしい男と再会するのだが……。
こちらもまた導入は面白い。さすがに当時の流行作家、お話作りの巧さには実に感心する。ただ、本作についてはプロット、特に中盤以降の展開が雑で強引すぎるのがいただけない。
本書で一番よかったのが「拒絶の影」。オープンしたばかりのホテルで、経営者の娘がボーイフレンドと喧嘩しして屋上から突き落とし、運悪く下にいた女性をも巻き込んでしまう。経営者は関係者の口を金で封じようとするが、客の一人だけはどうしても金を受け取らない。ただ、なぜか警察にもいわないという……。
真相の意外性は十分。経営者が金で次々と目撃者を買収してゆくが、一人だけ拒絶され、それでいて警察にもいわないというので、余計に疑心暗鬼になってゆく展開が面白い。途中から男が只者ではない雰囲気を醸し出し、ミステリアスな感じも悪くない。
以上、甘めに見て一勝二敗一引き分けぐらいの感じか。ミステリとしては弱いが、サクッと読めるし、昭和中頃の暮らしや文化を知りたい向きはどうぞ。
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