- Date: Thu 23 12 2021
- Category: 海外作家 グリフィス(エリー)
- Community: テーマ "推理小説・ミステリー" ジャンル "本・雑誌"
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エリー・グリフィス『見知らぬ人』(創元推理文庫)
年末ランキングで気になった作品をぼちぼち読んでいこうシリーズ、今回はエリー・グリフィスの『見知らぬ人』。本邦初紹介の作家ではあるが、本国イギリスでは2004年にデビューして、すでに二つの人気シリーズを持つ。本作はノンシリーズの一作だが、MWAの最優秀長編賞受賞作とのこと。
クレアはタルガース校の英語教師。弁護士の夫と離婚し、今は一人娘のジョージア、愛犬のハーバートと暮らしている。
教師のかたわら学校に縁のある伝説的作家ホランドの研究を行なうクレアだったが、あるとき同僚の英語教師エラが自宅で刺殺される事件が起こる。遺体のそばには一枚のメモが遺されていた、そこには「地獄はからだ」というメッセージが書かれていた。それはホランドの作品「見知らぬ人」に出てくる文章だった。
インド系の女性部長刑事ハービンダー・カーはさっそく捜査にあたるが、クレアにどこかすっきりしないものを感じて……。

おお、これはいいぞ。ひと皮剥くと実はかなりオーソドックスなミステリであり、ともすればゴシックロマンスの香りも感じられるほどだが、作者がさまざまな味付けや工夫をすることで、すっかり現代のミステリらしく仕上がっている。
とにかく情報量が多くてどこから行こうか迷うほどだが、まずは作中作「見知らぬ人」の存在は抜きにして語れない。今年は他にもホロヴィッツの『ヨルガオ殺人事件』やアレックス・パヴェージ『第八の探偵』なんてのもあって、作中作流行りという感じだが、どれも扱いが異なるのが面白い。
最近は作中作といってもメタなものから多重解決みたいなものまでバラエティに富んでいるが、本作は比較的クラシックに、見立て殺人という使い方をしている。他の二作ほど劇的ではないけれど、作中作「見知らぬ人」とその作者ホランドの持つ神秘的なイメージが物語を覆い、まるでゴシックロマンスのような雰囲気を醸し出すなど、なかなか効果的だ。
作中作「見知らぬ人」は各章の前振りのようにして小出しにされるのだが、章によって語り手が変わるのも大きな特徴だろう。語り手はクレア、クレアの娘ジョージア、ハービンダー・カー刑事の三名。
語り手が変わった瞬間に、これは叙述的な仕掛けもあるのかと嫌な予感も頭をよぎるが、著者はここでも変な凝り方はしない。一つの事件を各人の立場から語ることで立体的に見せるにとどめ、これも好感が持てる。それぞれの感情や秘密が水面下で交錯し、そこにサスペンスを産んでゆく。読者も誰を推していいのか不安になるという寸法だ。クレアとジョージア、クレアとカーのやりとりは駆け引きを裏から見るような楽しみもあり、サスペンス云々もあるけれど、単純に描写が上手いことに感心する。
作中作、三人の語り手というだけでもお腹いっぱいな感じだが、ここにクレアの日記も途中から差し込まれる。しかもその日記を誰かが盗み読みし、クレアにメッセージまで残していくという展開。盛り上げるのが巧いだけでなく、これだけの設定や工夫を盛り込みながら、まったく読みにくさがないのも素晴らしい。
キャラクターの造形もお見事。当たり前だがやはり三人の語り手の女性陣はいい。いわばトリプルヒロインだが、ことさら良い人にするのではなく、お互いの私見で描写させることで、欠点も遠慮なく挙げられていく。読者によっては感情移入しにくくて嫌がる人もいるだろうが、英国の女流作家らしい意地悪さが感じられて個人的には楽しいところだ(笑)。
惜しむらくはミステリとして若干弱いところ。帯で「この犯人は見抜けない」などと煽っているから、かなり構えてしまうが、本格としてはそこまでガチガチではなく、やはりサスペンス中心と思った方がいい。とはいえ長さを感じさせないリーダビリティもあり、十分に面白い一冊だった。
クレアはタルガース校の英語教師。弁護士の夫と離婚し、今は一人娘のジョージア、愛犬のハーバートと暮らしている。
教師のかたわら学校に縁のある伝説的作家ホランドの研究を行なうクレアだったが、あるとき同僚の英語教師エラが自宅で刺殺される事件が起こる。遺体のそばには一枚のメモが遺されていた、そこには「地獄はからだ」というメッセージが書かれていた。それはホランドの作品「見知らぬ人」に出てくる文章だった。
インド系の女性部長刑事ハービンダー・カーはさっそく捜査にあたるが、クレアにどこかすっきりしないものを感じて……。

おお、これはいいぞ。ひと皮剥くと実はかなりオーソドックスなミステリであり、ともすればゴシックロマンスの香りも感じられるほどだが、作者がさまざまな味付けや工夫をすることで、すっかり現代のミステリらしく仕上がっている。
とにかく情報量が多くてどこから行こうか迷うほどだが、まずは作中作「見知らぬ人」の存在は抜きにして語れない。今年は他にもホロヴィッツの『ヨルガオ殺人事件』やアレックス・パヴェージ『第八の探偵』なんてのもあって、作中作流行りという感じだが、どれも扱いが異なるのが面白い。
最近は作中作といってもメタなものから多重解決みたいなものまでバラエティに富んでいるが、本作は比較的クラシックに、見立て殺人という使い方をしている。他の二作ほど劇的ではないけれど、作中作「見知らぬ人」とその作者ホランドの持つ神秘的なイメージが物語を覆い、まるでゴシックロマンスのような雰囲気を醸し出すなど、なかなか効果的だ。
作中作「見知らぬ人」は各章の前振りのようにして小出しにされるのだが、章によって語り手が変わるのも大きな特徴だろう。語り手はクレア、クレアの娘ジョージア、ハービンダー・カー刑事の三名。
語り手が変わった瞬間に、これは叙述的な仕掛けもあるのかと嫌な予感も頭をよぎるが、著者はここでも変な凝り方はしない。一つの事件を各人の立場から語ることで立体的に見せるにとどめ、これも好感が持てる。それぞれの感情や秘密が水面下で交錯し、そこにサスペンスを産んでゆく。読者も誰を推していいのか不安になるという寸法だ。クレアとジョージア、クレアとカーのやりとりは駆け引きを裏から見るような楽しみもあり、サスペンス云々もあるけれど、単純に描写が上手いことに感心する。
作中作、三人の語り手というだけでもお腹いっぱいな感じだが、ここにクレアの日記も途中から差し込まれる。しかもその日記を誰かが盗み読みし、クレアにメッセージまで残していくという展開。盛り上げるのが巧いだけでなく、これだけの設定や工夫を盛り込みながら、まったく読みにくさがないのも素晴らしい。
キャラクターの造形もお見事。当たり前だがやはり三人の語り手の女性陣はいい。いわばトリプルヒロインだが、ことさら良い人にするのではなく、お互いの私見で描写させることで、欠点も遠慮なく挙げられていく。読者によっては感情移入しにくくて嫌がる人もいるだろうが、英国の女流作家らしい意地悪さが感じられて個人的には楽しいところだ(笑)。
惜しむらくはミステリとして若干弱いところ。帯で「この犯人は見抜けない」などと煽っているから、かなり構えてしまうが、本格としてはそこまでガチガチではなく、やはりサスペンス中心と思った方がいい。とはいえ長さを感じさせないリーダビリティもあり、十分に面白い一冊だった。