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探偵小説三昧

天気がいいから今日は探偵小説でも読もうーーある中年編集者が日々探偵小説を読みまくり、その感想を書き散らかすページ。

 

ジャック・ロンドン『赤死病』(白水Uブックス)

 ミステリを少し離れてジャック・ロンドンの『赤死病』を読む。表題作の中篇をはじめ、ジャック・ロンドンのSF系作品をまとめた一冊。収録作は以下のとおり。

The Scarlet Plague「赤死病」
The Unparalleled Invasion「比類なき侵略」
The Human Drift「人間の漂流」

 赤死病

 表題作の「赤死病」は、2013年に起こった赤死病によるパンデミックを描いた物語。パンデミックから地球滅亡へ至る様が、生き残った老人の語りというスタイルで描かれる。書かれたのは1910年で、まさにコロナ禍を予見していたかのような内容だが、小説の病原菌はコロナよりはるかに悪質であり、人類はほぼ全滅。すべての文明は無に帰して、わずかに生き残った人々は原始人のような生活に舞い戻っている。
 語り手の老人は人々が次々に倒れていった様子や、秩序が崩壊し、略奪や殺害が繰り返されていた悲惨な状況を“いまの”若者に伝えようとする。ゾンビ映画もかくやという有様だが、怖いのはその災厄後に生まれた若者たちには、ほとんど意味が伝わっていないことだ。話がわかりにくいとヤジが飛び、涙する老人を嘲笑うのである。
 病原菌によって人が死ぬ。電気もガスもなくなり、文明が滅びる。それらの事実は確かに怖しい。だが、本当に怖いのは、人類が人間性や精神性までも失ってしまったことだ。なんというか、映画『猿の惑星』にも通じるような薄ら寒さを感じてしまう。
 これまで山ほど書かれた感想だろうけれど、ほんと、これが百年以上も前に書かれていたことに驚くしかないし、今でもまったく古びた感じがない。

 そういう意味では「比類なき侵略」も侮れない。こちらは中国が強国となってしまったため、欧米諸国が細菌兵器によって滅亡に追い込むというもの。日本も実はそういう危機にあったが、日本が欧米の技術だけでなく欧米的な考え方をも積極的に取り入れたため、敵対視されることはなかったのだという。
 もう、こちらも設定が二十一世紀の世界情勢を見ているようで、ロンドンの先見性は恐ろしいばかりだ。ただ、ストーリーの概要のような作品なので、読み物としては少々物足りない。

 「赤死病」と「比類なき侵略」の二作に通じる歴史観というか、人類のリセットというのはジャック・ロンドンが当時、常に思い悩んでいたことなのかもしれない。細菌兵器はもちろん黄禍論や社会主義など、当時のブームも含めて文化論的エッセイにまとめたのが「人間の漂流」。こちらは講演でも聞いている感じで読むのが吉。


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プロフィール

sugata

Author:sugata
ミステリならなんでも好物。特に翻訳ミステリと国内外問わずクラシック全般。
四半世紀勤めていた書籍・WEB等の制作会社を辞め、2021年よりフリーランスの編集者&ライターとしてぼちぼち活動中。

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