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探偵小説三昧

天気がいいから今日は探偵小説でも読もうーーある中年編集者が日々探偵小説を読みまくり、その感想を書き散らかすページ。

 

藤井礼子『藤井礼子探偵小説選』(論創ミステリ叢書)

新年明けましておめでとうございます。
本年も「探偵小説三昧」を何卒よろしくお願い申し上げます。

 今年のミステリ的目標などは何もないのだが、相変わらず国内はクラシック、海外は雑食的になんでも読んでいこうと思っている。ただ、なんとかロス・マクドナルドとディクスン・カーは全冊、読了したいものだ。ロスマクは『さむけ』まで読んだところで一山越えた感が強いせいか、随分間が空いてしまったし、カーは長年停滞気味なので、せめて月イチは消化しないと。ロスマクは残り七冊、カーは十数冊ぐらいのはずなのでぜひなんとかしたい。それが完了すれば、次はクロフツとクリスティだ。
 あと、それとは別に読みたいのがポオ以前のミステリ関連小説。そしてミステリと他ジャンルの境界線上にある作品。前者の場合、どうしてもゴシックロマンが多くなるし、質量ともにサクサク読めるようなものではないが、やはり現代の小説にはない独特の読書体験ができるのがいい。とりあえず比較的アプローチしやすいジェイン・オースティンのいくつかの作品は今年中にやっつけたい。


 さて、今年最初の読了本は論創ミステリ叢書から『藤井礼子探偵小説選』。著者についてはほとんど知らなかったが、「大貫進」という男性名義で活躍した福岡在住の女性作家らしい。おお、それなら「死の配達夫」だけは『博多ミステリー傑作選』で読んだことがあるし、かなり好みの作品であった。
 解説によると、ちょうど仁木悦子と夏樹静子の間を埋めるようなタイミングで活躍したということだが、ほぼ地方での活動だったこと、主婦として家族の世話を第一に考えていたこと、病気で早くに亡くなったことなどもあって、作品数があまり多くはなく、今では忘れられた作家となったらしい。

 藤井礼子探偵小説選

「初釜」
「二枚の納品書」
「枕頭の青春」
「暁の討伐隊」
「死の配達夫」
「破戒」
「姑殺し」
「誤殺」
「幽鬼」
「舌禍」
「ガス 怖ろしい隣人達」
「狂気の系譜」
「盲点」
「帰館」
「籠の鳥」
「魔女」
「歪んだ殺意」
「赤い靴」
「慈善の牙」
「五年目の報復」

 収録作は以上。忘れられた作家となったのが不思議なほどハイレベルで、正月早々、非常に満足できる一冊だった。
 日常に題材をとったサスペンスが中心だが、タイプで言うとハイスミスやアルレー、レンデルあたりのイヤミスを想像してもらえるといいだろう。つまらない日常に不満を感じた主人公が、道を踏み外して破滅へと転がり落ちる様をえげつなく描く。丁寧でやや粘っこい文章がまた効果的で、作風にマッチしているのもいい。

 印象に残った作品は多い。高級茶盌の盗難事件を描く「初釜」は、初釜の席だけで事件発生から解決までを一気に展開する本格もの。冒頭から不吉の前兆を差し込み、独特の緊張感で持っていきつつ、ラストの謎解きも納得。粗もあるが、この味わいは素晴らしい。
 しかし、著者の本領発揮はやはり「枕頭の青春」以降のサスペンスにあるだろう。著者の一貫したサディスティックな姿勢はどれも見事で、しかもほぼどんでん返しも綺麗に決めており、かなりのインパクトをもたらしてくれる。強いていえば個人的ベストは「破戒」だが、「枕頭の青春」でも「姑殺し」でも、あるいは「狂気の系譜」でも「舌禍」でもよろしい。
 ストーリーが辛い話ばかりなので、どうしても好き嫌いが出るとは思うが、ぜひそこを我慢して読んでほしい一冊。


Comments
 
ポール・ブリッツさん

おお、指摘ありがとうございます。(修正済みです)

藤井礼子はまじでおすすめですが、イヤミスであるばかりでなく、題材がいじましいものばかりで、嫌な人は本当に読むのが苦痛かもしれません(笑)。でも、どれも巧いです。
 
2連発にするほどの力の入れようから、「姑殺し」がお気に入りであることがわかりました(←ちがうw)。 イヤミスは苦手ですが、図書館で見かけたら「姑殺し」だけでも読んでみようかな。(←だからちがうw)

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プロフィール

sugata

Author:sugata
ミステリならなんでも好物。特に翻訳ミステリと国内外問わずクラシック全般。
四半世紀勤めていた書籍・WEB等の制作会社を辞め、2021年よりフリーランスの編集者&ライターとしてぼちぼち活動中。

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