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 笹沢佐保の『突然の明日』を読む。笹沢作品のなかでも本格ミステリとして評価の高い一作。まずはストーリーから。

 六人暮らしの小山田家では、夜は全員揃っての夕食と団欒が習慣であった。あるとき保健所に勤務する長男の晴光が妙な体験をしたと話す。以前の恋人だった女性を街中で見かけたが、一瞬で消えてしまったというのである。もちろん、その場では家族の誰にも明確な答えなど出るはずもなかった。
 その翌日のことである。晴光があるマンションから落下して死亡したと警察から連絡が入った。しかもそのマンションの一室では殺人事件が発生していたというのである。警察では晴光が犯人で、犯行後に自殺したと推測しているようだった。
 平凡ながら幸せに暮らしていた小山田家にとって、それは残酷な知らせであった。父の義久は勤めを辞め、母は床に伏せる。婚約中だった長女の悦子は破談となり、次男の忠士はグレて遊び歩くようになる。
 そんななか、次女の涼子だけは兄への濡れ衣を晴らしたいと願い、やがて父の義久もきを取り直し、二人で調査を始めるのだが……。

 突然の明日

 なるほど。地味ではあるが、これは悪くない。
 警察の捜査はまったく描かれず、二人が僅かな手がかりを地道に追いかけ、真相を突き止める様が描かれてゆく。メインの謎がアリバイということもあるだろうが、華やかなトリックがあるわけではなく、アクロバティックなロジックが見られるわけでもない。しかし、聞き込みを続け、集めた情報をもとに、丹念に推論を積み重ねていくスタイルは、これもまた本格ミステリのひとつの形として堪能できる。終盤になれば、伏線もいろいろと張ってあったことがわかり、思わず舌を打つ周到さである。

 街中の人間消失という、本来ならもっと派手に扱える謎がすこぶる地味な扱いなのも、本作の雰囲気やテーマに合わせてのことなのだろう。最悪の場合「気のせい」で片付けるのではないかとやや不安だったが、きちんと解決してくれるのでホッとした(笑)。もちろん現実離れしたトリックではなく、こちらも作品の雰囲気にあわせ、心理的な錯覚を利用している点がなかなかよい。

 「突然の明日」というタイトルは、何気ない日常が突然壊れることもあるのだという運命の怖さを意味している。だが人は生きていく以上、そういった悲劇に折り合いをつけなければならない。ラストで主人公たちが再び歩き出していく姿はそれを象徴しているかのようで、それが救いである。
 ただ、欲をいえば、主人公たちがより力強く歩み出せるよう、犯人との対決をラストに持ってきてほしかったという思いはある。そこだけが残念。

 なお本作は講談社文庫で長らく品切れだったが、来月には徳間文庫で刊行されるようなので、気になった方はそちらが入手しやすい。

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ハヤシさん

笹沢作品は多作家ですが、クオリティが高いですね。古書店で見かけたらぼちぼち買ってはいますが、『暗い傾斜』の方はまだ未所持です。これ、ネットで見るとけっこう高価で驚きました。そのうちなんとかしたいものです、というか徳間文庫で復刊されると手っ取り早いですが(笑)。
【2022/01/14 16:47】 URL | sugata #8Y4d93Uo[ 編集]

昭和の流行作家の殆どが忘れられていく中、こうして笹沢作品が復活するのは嬉しいことです。個人的なお勧めはアリバイトリックが秀逸な『暗い傾斜』です。『求婚の密室』の乱歩の某作品を思わせる密室トリックも斬新でしたが、あまりに中間小説臭が濃厚な描写は若い読者には辛いかもしれません(笑)
【2022/01/14 09:30】 URL | ハヤシ #-[ 編集]















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