- Date: Thu 27 01 2022
- Category: 海外作家 リューイン(マイクル・Z)
- Community: テーマ "推理小説・ミステリー" ジャンル "本・雑誌"
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マイクル・Z・リューイン『カッティングルース(下)』(理論社)
上巻の段階で早々と傑作認定していたが、幸い下巻でもそれを裏切られることなく、無事『カッティングルース(下)』を読了。いやあ、面白かった。

上巻の記事でも少し書いたが、本作は二つの時間軸の物語が交互に語られる構成をとる。
ひとつはジャック・クロスという男装の少女が、親友を殺した犯人を追うという物語だ。親友が亡くなる場面から始まり、彼女は犯人を追ってイギリスに渡る。しかしイギリスに不案内なのはもちろん、そもそも社会経験が少ないジャックだから、その前途は多難である。ときには騙され、ときには理不尽な目に遭いながらも、応援してくれる人の力を借りながら少しずつ犯人に接近していく。
最初は状況がよく飲み込めないものの、読み進めるうちに彼女がどうやら女性であることを隠しながらプロ野球の選手としてプレイしていたこと、そして犯人がどうやら子供の頃から知っていた人物らしいことなどがわかるが、犯人だけでなく殺された親友との関係もなかなか明らかにならない。そうした興味で物語を引っ張りつつ、下巻でこのあたりが明らかになってくるとジャックのパートは一気に盛り上がる。よくあるパターンではあるが、こうした起伏に富んだストーリーの組み立てはさすがリューインである。
ただ、それだけだと面白いミステリで終わる可能性もある。本作に厚みを与えているのは、もう一つの物語があるからだ。
それがジャックのの祖母にあたるクローデット・クロスの物語。十九世紀のアメリカは人種差別どころか人身売買まで普通に行われている時代で、孤児のクローデットの苦労はジャックの比ではない。ときには犯罪にも手を染めるが、自らの手で道を切り開いてゆく。そして息子マシュウが生まれると洗濯屋を開業し、協力者も現れて、彼女なりに小さな幸せを手に入れる。やがてマシュウは黎明期のプロ野球で頭角を表し、ジャックという娘も誕生するのだが……。
クローデット、マシュウ、ジャックという三代にわたって描くことで、当時のアメリカの問題点を浮き彫りにし、さらにはジャックのパートで不明だったところが鮮明になる。というかジャックのパートの一番最初に綺麗に繋がるわけである。これがまた気持ちよい。現代と過去、二つのパートで交互に物語るスタイルは最近のミステリには非常に多いけれど、本作のように近い時代で絡めてくるパターンは珍しく、こういうところもリューインの巧さだろう。おまけにアメリカのプロ野球黎明期の様子も面白く読めるし、それらが渾然一体となり、文字どおりページを捲る手が止まらなくなるのだ。
それにしてもリューインがこういった小説、つまり家族年代記ともいうような小説を書いていたとは思わなかった。読む前は予備知識として、友人を殺された主人公が自分で犯人を追うという作品、しかもYA向けということなので、要はライトで口当たりのよい青少年向けミステリのイメージだったのだが、いざ読んでみると全然違う。
そもそも、そこまでYA向きという内容ではないし、殺人犯を追うのも全体のなかの一面でしかない。本作はもっと大きなテーマをもったエンターテインメント作品なのである。ちょっと強引だが、タイプとしては『父を撃った12の銃弾』、『ザリガニの鳴くところ』に近いかもしれない。
とはいえプロットやサプライズはミステリ的な香りも強く、この辺はやはり『ザリガニの鳴くところ』あたりとは一線を画すところだろう。どちらがいい悪いではなく、リューインはそういうタイプの作者・作品ということだ。
本書は理論社という版元もあってか、刊行時はミステリファンの間でもあまり評判にならなかったようだ。実際、管理人もようやく読んでいる始末である。しかし、その出来はリューイン全作中でもトップクラス。今年、早川書房からはリューインが三冊刊行されるということだし、本作は刊行から十六年経ったこともある。できれば本作もぜひ文庫化して広く読まれてほしいものだ。

上巻の記事でも少し書いたが、本作は二つの時間軸の物語が交互に語られる構成をとる。
ひとつはジャック・クロスという男装の少女が、親友を殺した犯人を追うという物語だ。親友が亡くなる場面から始まり、彼女は犯人を追ってイギリスに渡る。しかしイギリスに不案内なのはもちろん、そもそも社会経験が少ないジャックだから、その前途は多難である。ときには騙され、ときには理不尽な目に遭いながらも、応援してくれる人の力を借りながら少しずつ犯人に接近していく。
最初は状況がよく飲み込めないものの、読み進めるうちに彼女がどうやら女性であることを隠しながらプロ野球の選手としてプレイしていたこと、そして犯人がどうやら子供の頃から知っていた人物らしいことなどがわかるが、犯人だけでなく殺された親友との関係もなかなか明らかにならない。そうした興味で物語を引っ張りつつ、下巻でこのあたりが明らかになってくるとジャックのパートは一気に盛り上がる。よくあるパターンではあるが、こうした起伏に富んだストーリーの組み立てはさすがリューインである。
ただ、それだけだと面白いミステリで終わる可能性もある。本作に厚みを与えているのは、もう一つの物語があるからだ。
それがジャックのの祖母にあたるクローデット・クロスの物語。十九世紀のアメリカは人種差別どころか人身売買まで普通に行われている時代で、孤児のクローデットの苦労はジャックの比ではない。ときには犯罪にも手を染めるが、自らの手で道を切り開いてゆく。そして息子マシュウが生まれると洗濯屋を開業し、協力者も現れて、彼女なりに小さな幸せを手に入れる。やがてマシュウは黎明期のプロ野球で頭角を表し、ジャックという娘も誕生するのだが……。
クローデット、マシュウ、ジャックという三代にわたって描くことで、当時のアメリカの問題点を浮き彫りにし、さらにはジャックのパートで不明だったところが鮮明になる。というかジャックのパートの一番最初に綺麗に繋がるわけである。これがまた気持ちよい。現代と過去、二つのパートで交互に物語るスタイルは最近のミステリには非常に多いけれど、本作のように近い時代で絡めてくるパターンは珍しく、こういうところもリューインの巧さだろう。おまけにアメリカのプロ野球黎明期の様子も面白く読めるし、それらが渾然一体となり、文字どおりページを捲る手が止まらなくなるのだ。
それにしてもリューインがこういった小説、つまり家族年代記ともいうような小説を書いていたとは思わなかった。読む前は予備知識として、友人を殺された主人公が自分で犯人を追うという作品、しかもYA向けということなので、要はライトで口当たりのよい青少年向けミステリのイメージだったのだが、いざ読んでみると全然違う。
そもそも、そこまでYA向きという内容ではないし、殺人犯を追うのも全体のなかの一面でしかない。本作はもっと大きなテーマをもったエンターテインメント作品なのである。ちょっと強引だが、タイプとしては『父を撃った12の銃弾』、『ザリガニの鳴くところ』に近いかもしれない。
とはいえプロットやサプライズはミステリ的な香りも強く、この辺はやはり『ザリガニの鳴くところ』あたりとは一線を画すところだろう。どちらがいい悪いではなく、リューインはそういうタイプの作者・作品ということだ。
本書は理論社という版元もあってか、刊行時はミステリファンの間でもあまり評判にならなかったようだ。実際、管理人もようやく読んでいる始末である。しかし、その出来はリューイン全作中でもトップクラス。今年、早川書房からはリューインが三冊刊行されるということだし、本作は刊行から十六年経ったこともある。できれば本作もぜひ文庫化して広く読まれてほしいものだ。
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