- Date: Thu 03 02 2022
- Category: 国内作家 笹沢左保
- Community: テーマ "推理小説・ミステリー" ジャンル "本・雑誌"
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笹沢左保『求婚の密室』(光文社文庫)
笹沢左保はサスペンスや時代小説を数多く書いた多作家でありながら、マンネリに陥ることなく、ミステリに対してさまざまな試みを実践してきた作家でもある。そのため大傑作とまではいかないまでも、著者のアイデアが詰まった「これは読んでおくべき」という作品が多いのが魅力だろう。
ただ、当時の雑誌やテレビドラマでの一般的なファンを取り込む必要から、昭和の作品には味付けとしての過剰なサスペンスやお色気が盛り込まれているのも事実。復刊も増えてきているようだが、その点が今の若いミステリファンにどう映るかが心配である(笑)。
さて、そんな笹沢作品から、本日は『求婚の密室』を読了する。こんな話。
大学教授の西条豊士は、自らの誕生日と引退を祝い、同時に女優の娘・富士子の婚約発表をするため、軽井沢の別荘に十三人の人々を招待する。だが招かれた人々は決してそこまで穏やかなメンバーではなかった。
というのも西条はその年の初めにセクハラで女子学生から告訴されていた。やがて告訴は取り下げられたが、その際に西条と対立した関係者が全員招待されていたのだ。さらには富士子の婚約発表についても、婚約者候補が二人招待され、そのどちらかが正式に選ばれる予定であった。ただ一人、ルポタイターの天知昌二郎だけはマスコミにセクハラ事件の噂が広がるのを阻止すべく動いたため、そのお礼もあって招待されているようだった。
しかし、翌朝、西条夫妻が離れの地下室において、密室状態で死体となって発見される。そして床にはダイイング・メッセージと思われる文字が……。

これはまた思い切った趣向である。軽井沢の別荘を舞台に、限られた登場人物だけで構成しているのは嵐の山荘的で、ここに密室やダイイング・メッセージという仕掛けを盛り込むなど、非常に本格ミステリを意識した作品となっている。
しかもストーリーも非常に潔い。基本的には事件が起こった後、三人の人物によって推理が順番に披露されるというもの。つまり多重解決ものでもあるのだ。気持ちとしては一幕ものの推理劇であり、本格好きならゾクゾクすること請け合いの設定なのである。恐ろしいことに本作が発表されたのは1978年、著者がすでに売れっ子になった以後の作品だということ。それがここまでガチの本格にチャレンジしたところに、著者の本格ミステリに対する並々ならぬ意気込みを感じる。
ただ、正直なところトリックが弱く、特にダイイング・メッセージはいただけない。しかし、実はもう一つ最後に明かされるトリックがあって、そちらがいろいろな意味でインパクトがあるため、差し引きすれば十分お釣りがくるといってよいだろう。
なお、この光文社文庫版自体が2009年刊行の新装版なのだが、どうやら版元品切れのようなので、これもできれば徳間文庫の復刊レーベル「トクマの特選!」に入れてもよいのではないだろうか。
ただ、当時の雑誌やテレビドラマでの一般的なファンを取り込む必要から、昭和の作品には味付けとしての過剰なサスペンスやお色気が盛り込まれているのも事実。復刊も増えてきているようだが、その点が今の若いミステリファンにどう映るかが心配である(笑)。
さて、そんな笹沢作品から、本日は『求婚の密室』を読了する。こんな話。
大学教授の西条豊士は、自らの誕生日と引退を祝い、同時に女優の娘・富士子の婚約発表をするため、軽井沢の別荘に十三人の人々を招待する。だが招かれた人々は決してそこまで穏やかなメンバーではなかった。
というのも西条はその年の初めにセクハラで女子学生から告訴されていた。やがて告訴は取り下げられたが、その際に西条と対立した関係者が全員招待されていたのだ。さらには富士子の婚約発表についても、婚約者候補が二人招待され、そのどちらかが正式に選ばれる予定であった。ただ一人、ルポタイターの天知昌二郎だけはマスコミにセクハラ事件の噂が広がるのを阻止すべく動いたため、そのお礼もあって招待されているようだった。
しかし、翌朝、西条夫妻が離れの地下室において、密室状態で死体となって発見される。そして床にはダイイング・メッセージと思われる文字が……。

これはまた思い切った趣向である。軽井沢の別荘を舞台に、限られた登場人物だけで構成しているのは嵐の山荘的で、ここに密室やダイイング・メッセージという仕掛けを盛り込むなど、非常に本格ミステリを意識した作品となっている。
しかもストーリーも非常に潔い。基本的には事件が起こった後、三人の人物によって推理が順番に披露されるというもの。つまり多重解決ものでもあるのだ。気持ちとしては一幕ものの推理劇であり、本格好きならゾクゾクすること請け合いの設定なのである。恐ろしいことに本作が発表されたのは1978年、著者がすでに売れっ子になった以後の作品だということ。それがここまでガチの本格にチャレンジしたところに、著者の本格ミステリに対する並々ならぬ意気込みを感じる。
ただ、正直なところトリックが弱く、特にダイイング・メッセージはいただけない。しかし、実はもう一つ最後に明かされるトリックがあって、そちらがいろいろな意味でインパクトがあるため、差し引きすれば十分お釣りがくるといってよいだろう。
なお、この光文社文庫版自体が2009年刊行の新装版なのだが、どうやら版元品切れのようなので、これもできれば徳間文庫の復刊レーベル「トクマの特選!」に入れてもよいのではないだろうか。
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原作提供というだけでなく、非常にドラマ化しやすい構成というか、いい意味でのコンパクトさやまとまりがあって、確かに二時間ドラマに与えた影響は大きいですよね。
最近、現代の翻訳ミステリとか読んでいると、いつも長すぎるのが気になるので、こういう長所はさすが流行作家ならではという感じですね。