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探偵小説三昧

天気がいいから今日は探偵小説でも読もうーーある中年編集者が日々探偵小説を読みまくり、その感想を書き散らかすページ。

 

風間賢二『怪異猟奇ミステリー全史』(新潮選書)

 風間賢二の『怪異猟奇ミステリー全史』を読む。
 著者は怪奇幻想文学関係の評論や翻訳でお馴染みの方。本作も表面的にはミステリの歴史を追うというスタイルではあるが、あくまで怪奇幻想文学サイドに立った視点で語られ、その時代の文化と絡めて解説されるるのが著者ならではといったところだ。膨大な資料や知識に裏打ちされた内容ながら、文章はわかりやすく、一般的なミステリ史ではなく文化史の側面も持つミステリの歴史が楽しめる。

怪異猟奇ミステリー全史

 興味深いところはいろいろあるが、まずは構成。いわゆるミステリ史の解説本だと普通はエドガ・アランポーから始めるところだが、本書ではポー以前のゴシックからスタートさせている。
 さらには、それが西洋でどのように変遷し、日本に伝わってどのような影響を与えてきたかという流れで解説する。世界のミステリ史や日本のミステリ史を解説した本はあるが、海外から日本へとそのままつながる形は珍しい。だから目次も前半は海外の話、後半は日本の話が中心となる。これが点ではなく、あくまで線として流れで捉えて解説しているので、そこまで違和感はない。

 内容的には著者が明らかに力を入れている第一章、第二章に注目したい。この二つの章はポー以前の探偵小説夜明け前の時代、ゴシック小説の起こりから解説している。個人的にも昨年からこの時代の関連作品を読み進めていることもあって非常に面白く読めた。
 そもそもこの時代の文学についてはもちろん王道の評論などはあるのだけれど、ミステリとの関連で語ってくれるものは少なく、そういう意味でもありがたい。レジス・メサックの『「探偵小説」の考古学』もいつ読もうかと思っていたが、ちょうどいいタイミングで背中を押してもらった感じだ(笑)。

 なお、先に書いたとおり本書はあくまで怪奇幻想文学サイドに立ったミステリ史である。一般のミステリ史を読むつもりだと、ちょっと当てが外れるだろうからその辺はご注意を。
 まあ知らずに読んだとしても、本書は数々の怪奇小説や幻想小説、ミステリが紹介されており、ブックガイドとしても有効なのでまったく問題ないとは思うが。
 個人的にも未読が多いが、まずは元祖『オトラントの城』を再読したい気持ちが強くなってきたなぁ。それから『ユドルフォ城の怪奇』あたりか、それともジェイン・オースティン。ううむ宿題が増える一方だ。


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プロフィール

sugata

Author:sugata
ミステリならなんでも好物。特に翻訳ミステリと国内外問わずクラシック全般。
四半世紀勤めていた書籍・WEB等の制作会社を辞め、2021年よりフリーランスの編集者&ライターとしてぼちぼち活動中。

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