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探偵小説三昧

天気がいいから今日は探偵小説でも読もうーーある中年編集者が日々探偵小説を読みまくり、その感想を書き散らかすページ。

 

ノーマン・ベロウ『消えたボランド氏』(論創海外ミステリ)

 ノーマン・ベロウの『消えたボランド氏』を読む。著者の作品を読むのは『魔王の足跡』に次いで二作目だが、あちらがスミス警部を探偵役にしたシリーズだったのに対し、本作はラジオドラマの俳優モンタギュー・ベルモアが探偵役を務める。

 こんな話。ラジオドラマの老俳優ベルモアは、友人の会社経営者ウィロビー・デルに連れられ、デルのコテージに滞在していた。ある時、隣人のボランドをクレシックという男が訪ねてきたが、ボランドは散歩に出ているらしく、クレシックは仕方なくその辺りで時間を潰しにいく。
 やがて散歩から戻ったボランドに、デルがクレシックという男が訪ねてきたことを告げると、ボランドは突然顔色が変わり、なぜか家には戻らず崖の方へ去っていった。
 なにやら妙な気配を感じたデルとベルモア。と、そのとき。クレシックがボランドの名を叫びながら現れ、崖の方へ走り出していくではないか。二人はクレシックを崖っぷちで捕まえたが、クレシックはボランドがここから飛び降りてしまったと話す。だが、崖下にはボランドの姿が見当たらず……。


 消えたボランド氏

 メインディッシュが飛び降り死体の消失トリックという作品だが、本作が発表された1954年ということを考慮しても、トリックとしては少々古臭い。おまけに関係者がどんどん殺害されるものだから、この二つをあわせるとフーダニットとしても弱く、『魔王の足跡』と比べると一枚劣る感じは否めない。

 ではつまらない作品なのかというと、意外にそんなことはなく、読んでいる間はまずまず楽しめる。これは探偵役の俳優モンタギュー・ベルモアによるところが大きいだろう。状況に応じ、過去に演じた人物になりきって場を乗り切るというキャラ設定が面白いし、基本的には俳優だけあって目立ちたがりのお茶目さん(笑)。芝居がかった言動は当たり前だし、馬鹿騒ぎだって繰り広げる。『魔王の足跡』がオカルト趣味もあってカーとの類似性を指摘されているけれど、本作は本作でファース傾向の強いカー作品と似ており、その手の作品が好みなら本作も気に入るはずだ。
 ストーリーも序盤こそ少々まどろっこしいが、最初の事件以後は俄然盛り上がってよろしい。作風にそぐわないぐらい、まさかの連続殺人で、結果的に容疑者を減らしすぎるというデメリットは発生するものの、終盤に向けての盛り上げには非常に効果的だ。ラストに至っては派手な冒険小説的展開も見せ、この辺りもさすが英国の伝統を忠実に守っている感じで微笑ましい(著者は英国出身だがニュージーランドに移住し、本作もオーストラリアが舞台)。

 ちょうど今テレビでオリンピックの女子フィギュアスケートをやっているけれど、トリプルアクセルなど狙わず、確実なダブルで完成度を高めて高得点を狙う、というような作品。英国風のクラシックミステリがお好みなら、という但し書きは必要だが、個人的には気に入った。

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プロフィール

sugata

Author:sugata
ミステリならなんでも好物。特に翻訳ミステリと国内外問わずクラシック全般。
四半世紀勤めていた書籍・WEB等の制作会社を辞め、2021年よりフリーランスの編集者&ライターとしてぼちぼち活動中。

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