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探偵小説三昧

日々,探偵小説を読みまくり、その感想を書き散らかすブログ


天城一『島崎警部のアリバイ事件簿』(日本評論社)

 立川へ出かけて『チャーリーとチョコレート工場』を観る。原作の感想は先日書いたとおりだが、映画版ではティム・バートンとジョニー・デップのコンビということで、こちらもある程度期待大。で、その期待はまったく裏切られなかった。原作のあの世界をかくもうまく再現したものだと感心する。ジョニー・デップのワンカ氏、そして子供たちの演技も絶妙で、ついでにいうとリスの演技もすごい(ちゃんと調教したらしい)。原作にはないワンカ氏の過去を語ることによって家族愛というテーマも強く打ち出しており、これも普通なら気になるところだが、見事にバートンのチョコレート工場に仕立て直していると感じた。ウンパ・ルンパのダンスも笑えます。原作同様おすすめ。
 ちなみに映画館ではチョコレート味のチュロスが馬鹿売れ。やっぱ食べたくなるよね。

 天城一の『島崎警部のアリバイ事件簿』を読み終える。
 密室ものを中心とした前作『天城一の密室犯罪学教程』に対し、本作では時刻表トリックによるアリバイ崩しものと、不可能犯罪ものの二部構成。こちらが読み慣れたせいか、あるいは書かれた時代によるものか、本作の方が比較的スムーズに読めた気がする。それでも寝る前に短編ひとつ、みたいな読み方をしたせいで、優に1カ月近くかかっての読了である。
 PART1の「ダイヤグラム犯罪編」は圧巻。正直、時刻表によるアリバイ破りはそれほど好きなテーマではないので、こうしてまとめて読むことも希なのだが、ちくちくと試行錯誤を重ねてゆく過程は、予想を遙かに超える面白さだった。まあ、ある意味推理小説の王道でもあるわけで、そこらの「旅情」鉄道ミステリとはひと味もふた味も違うのは当たり前か。「ダイヤグラム犯罪編」でのお好みは、「急行《西海》」と「準急《皆生》」。
 PART2の「不可能犯罪編」は、島崎警部を主役にしながらも、テーマは不可能犯罪と言うことで、やはり派手な作品が多い。とりわけ「雪嵐/湖畔の宿」はいわゆる<嵐の山荘>ものだが、舞台設定といい、カットバック的手法といい、天城一とは思えないサービス振り。好き嫌いだけなら本作のマイ・フェイヴァリットである。つまるところ島崎警部の不可能犯罪ものが一番個人的には合っているのかもしれない。

 しかし、以前アンソロジー等で読んだときは、それほど感心しなかった天城作品だが、やはりまとめて読むことで見えてくる部分は多い。『天城一の密室犯罪学教程』の感想でも書いたのだが、もっとも感心するのはあの文章である。
 かなり以前、アンソロジーの摩耶ものであの文章を読まされたときは、どちらかというと否定的な印象だったのだが、いや、だんだん良くなる法華の太鼓。切り詰めた結果、とはいいながら、ある種のリズムを備え、そしてどことなくシュールな感覚を味わえる文章。これなくしては天城一の特異性というのは決して生まれなかったのではないか。それが本日のまとめ。

 なお収録作は以下のとおり。

PART1 ダイヤグラム犯罪編
「急行《さんべ》」
「寝台急行《月光》」
「急行《あがの》」
「準急《たんご》」
「急行《西海》」
「準急《皆生》」
「急行《白山》」
「急行《なにわ》」
「特急《あおば》」

PART2 不可能犯罪編
「われらのシンデレラ」
「われらのアラビアン・ナイト」
「われらのローレライ」
「方程式」
「失われたアリバイ」
「ある晴れた日に」
「雪嵐/湖畔の宿」
「朽木教授の幽霊」
「春嵐」

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Author:sugata
ミステリならなんでも好物。特に翻訳ミステリと国内外問わずクラシック全般。
四半世紀勤めていた書籍・WEB等の制作会社を辞め、2021年よりフリーランスの編集者&ライターとしてぼちぼち活動中。

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