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都筑道夫『やぶにらみの時計』(徳間文庫)
このところ「トクマの特選!」づいているが、本日の読了本も都筑道夫の『やぶにらみの時計』。ン十年ぶりの再読。解説によると、それまで時代小説やリライト本などを書いていた著者が、本格的にミステリを執筆するようになった、いわば推理作家としての「再デビュー作」である。
深酒をした浜崎誠治が目を覚ますと、彼は見知らぬ部屋で見知らぬ女性に話しかけられた。彼はその女性の夫で、会社社長の雨宮毅だという。慌ててその家を飛び出した浜崎は自宅のアパートに戻るが、今度は自分の妻や隣人までもが、彼のことを誰も知らないと言うではないか。一体何が起こったのか。浜崎は自分が何者なのか確かめるため、東京を彷徨うことになるが……。

都筑道夫は多作家ではあったが、ワンパターンな作品を量産するのではなく、ミステリの可能性に挑戦した作家である。とりわけ初期作品にはトリッキーな作品が多く、再デビュー作と位置付けられる本作にして、すでに意欲的な試みにいくつか挑んでいる。
まずはストーリーの設定。それまで普通に暮らしていた主人公が、突然自分の存在を証明できなくなったり、あるいは主人公のことを皆が覚えていなくなるというパターン。アイリッシュの名作『幻の女』などが有名だが、本作でもその趣向に挑戦している。
中程では同趣向の作品について蘊蓄をたっぷり披露する場面まであり、この辺りはマニアックすぎて読者おいてきぼりの感も強いけれど、著者のドヤ顔も想像できて微笑ましいところでもある。
ただ、この趣向はSFミステリでもないかぎり仕掛けには限界があり、本作もネタを明かせばやっぱりねという感じが強いのは残念。
もう一つは文章上の試みである。ミステリだけでなく小説としても珍しい二人称を使っていることだ。その目的はいろいろあるだろうが、大きくは読者と主人公を同化させて臨場感を高める、地の文が実況中継のようになって独特のテンポを産んだり、サスペンスを高めるなどの効果を狙ってのことだろう。
「きみは目をひらく」、「きみの声は嬉しそうだ」などとやられると、最初は少々落ち着かないものの、慣れると確かに独特のリズムがあって実に楽しい。とはいえ、こちらも主人公が単独で動いている場合はともかく、作中で相棒が登場すると徐々に効果が薄れてくるようにも感じた。
ということで個人的には傑作とまでは思わないけれど、著者のチャレンジ精神には惚れ惚れするし、ミステリファンであればやはり一度は読んでおきたい作品である。
深酒をした浜崎誠治が目を覚ますと、彼は見知らぬ部屋で見知らぬ女性に話しかけられた。彼はその女性の夫で、会社社長の雨宮毅だという。慌ててその家を飛び出した浜崎は自宅のアパートに戻るが、今度は自分の妻や隣人までもが、彼のことを誰も知らないと言うではないか。一体何が起こったのか。浜崎は自分が何者なのか確かめるため、東京を彷徨うことになるが……。

都筑道夫は多作家ではあったが、ワンパターンな作品を量産するのではなく、ミステリの可能性に挑戦した作家である。とりわけ初期作品にはトリッキーな作品が多く、再デビュー作と位置付けられる本作にして、すでに意欲的な試みにいくつか挑んでいる。
まずはストーリーの設定。それまで普通に暮らしていた主人公が、突然自分の存在を証明できなくなったり、あるいは主人公のことを皆が覚えていなくなるというパターン。アイリッシュの名作『幻の女』などが有名だが、本作でもその趣向に挑戦している。
中程では同趣向の作品について蘊蓄をたっぷり披露する場面まであり、この辺りはマニアックすぎて読者おいてきぼりの感も強いけれど、著者のドヤ顔も想像できて微笑ましいところでもある。
ただ、この趣向はSFミステリでもないかぎり仕掛けには限界があり、本作もネタを明かせばやっぱりねという感じが強いのは残念。
もう一つは文章上の試みである。ミステリだけでなく小説としても珍しい二人称を使っていることだ。その目的はいろいろあるだろうが、大きくは読者と主人公を同化させて臨場感を高める、地の文が実況中継のようになって独特のテンポを産んだり、サスペンスを高めるなどの効果を狙ってのことだろう。
「きみは目をひらく」、「きみの声は嬉しそうだ」などとやられると、最初は少々落ち着かないものの、慣れると確かに独特のリズムがあって実に楽しい。とはいえ、こちらも主人公が単独で動いている場合はともかく、作中で相棒が登場すると徐々に効果が薄れてくるようにも感じた。
ということで個人的には傑作とまでは思わないけれど、著者のチャレンジ精神には惚れ惚れするし、ミステリファンであればやはり一度は読んでおきたい作品である。
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Comments
Edit
初期の都筑道夫作品は同時代の海外ミステリと比較しても、その先鋭さは突出している気が。個人的には最高傑作は『誘拐作戦』かと。
そして唐突ながら同じ頃の市川崑の映画『穴』や『黒い十人の女』などの諸作に乾いたユーモアとスタイリッシュなモダニズムが通じるものを感じます。都筑道夫作品のリバイバルは嬉しい限りです。
Posted at 02:46 on 03 02, 2022 by ハヤシ
ハヤシさん
ああ、『誘拐作戦』も近々読もうかなと思っていたところです。この頃の都筑道夫は本当に無双状態ですね。
徳間だけでなく、他の版元も続いてほしいところです。
Posted at 18:19 on 03 02, 2022 by sugata