- Date: Sun 06 03 2022
- Category: 海外作家 マクドナルド(ロス)
- Community: テーマ "推理小説・ミステリー" ジャンル "本・雑誌"
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ロス・マクドナルド『ドルの向こう側』(ハヤカワ文庫)
久々にロスマク読破計画が一歩前進、『ドルの向こう側』を読む。リュウ・アーチャーものとしては十三作目となる。前回の『さむけ』が2020年の9月の読了だったので、約一年半も空いてしまった計算になる。何とか月一ペースにして今年中に済ませてしまいたいものだ。
まずはストーリー。私立探偵リュウ・アーチャーは寄宿制の学校ラグナ・ペルディダの校長から生徒の捜索を依頼される。ラグナ・ペルディダは地区の問題児を多く受け入れる学校だが、生徒の一人トム・ヒルマンが夜中に脱走したのだ。ところがアーチャーが調査を始めるやいなや、トムが誘拐されたという知らせがトムの両親からもたらされた。ところがトムの行方を追うアーチャーは、まもなくトムが謎の女と街を出歩いているという情報を入手する……。

いやあ、これはまた何というか、『さむけ』とはまた味が異なるのだが、こちらも文句なしの傑作。ややもすると『さむけ』をはじめとするトップクラスの作品よりは落ちるといった書評も見たりするが、全然そんなことはない。著者の作品はもちろんハードボイルドだが、本格要素も強く、サプライズも疎かにはしていないところが強み。そして何よりそれらミステリとしての枠すら超えた小説としての面白さと感動がある。
マクドナルドの感想は毎回、同じような感じになってしまってお恥ずかしいかぎりだが、実際そういう感想になってしまうのだからしょうがない。
本作では失踪人の調査から始まるが、早々に誘拐事件に舵を切り、ついには殺人も起こるわけだが、それでも特別驚くような展開というわけではない。むしろ本作では中心となる少年トム・ヒルマンがなかなか登場せず、一見失踪事件ではあるが実はいったい何が起こっているのか、そしてその裏にある本当の問題とは何なのか、なかなか明らかにならない。ヒルマン一家の抱える問題も朧げながら見えるものの、それはまったく表面的なものでしかない。それでもアーチャーの調査の過程で、それらの謎少しずつ解き明かされ、それが物語の推進力にもなっている。
そして物語の終盤、アーチャーがようやくトムと出会えてからの展開は圧巻だ。アーチャーとトム、トムの両親たちとのやりとりは事件の真相だけでなく、ヒルマン家の本当の闇を明らかにする。実に残酷な真相ではあるが、それが単にヒルマン家だけの問題ではなく、同時にアメリカに蔓延している病であることも気づかせてくれる。ぶっちゃけマクドナルドお得意のパターンではあるのだが、この流れるような手管が実に見事。そして最後の最後で、もう一つ強烈な印象を残す。
個人的に印象深かったのは、何といってもアーチャーとトムのラストのやりとりだ。トムの行動は拙いながらもその根っこは決して間違っているわけではない。トムの問題を肥大化させたのはやはり親子の関係であり、悪いのは大人だ。それでもトムに理解、納得してもらわなければならない現実もあり、アーチャーはできるかぎり誠実に対応する。この切なさ。そして、それでもトムの心を変えることはできない。
ラストの衝撃も踏まえ、トムがこの後どのような人生を歩むのか、マクドナルドはあえて一切を描いていないが、安っぽいハッピーエンドや希望をあえて残さなかったところにマクドナルドの覚悟が感じられる。
まずはストーリー。私立探偵リュウ・アーチャーは寄宿制の学校ラグナ・ペルディダの校長から生徒の捜索を依頼される。ラグナ・ペルディダは地区の問題児を多く受け入れる学校だが、生徒の一人トム・ヒルマンが夜中に脱走したのだ。ところがアーチャーが調査を始めるやいなや、トムが誘拐されたという知らせがトムの両親からもたらされた。ところがトムの行方を追うアーチャーは、まもなくトムが謎の女と街を出歩いているという情報を入手する……。

いやあ、これはまた何というか、『さむけ』とはまた味が異なるのだが、こちらも文句なしの傑作。ややもすると『さむけ』をはじめとするトップクラスの作品よりは落ちるといった書評も見たりするが、全然そんなことはない。著者の作品はもちろんハードボイルドだが、本格要素も強く、サプライズも疎かにはしていないところが強み。そして何よりそれらミステリとしての枠すら超えた小説としての面白さと感動がある。
マクドナルドの感想は毎回、同じような感じになってしまってお恥ずかしいかぎりだが、実際そういう感想になってしまうのだからしょうがない。
本作では失踪人の調査から始まるが、早々に誘拐事件に舵を切り、ついには殺人も起こるわけだが、それでも特別驚くような展開というわけではない。むしろ本作では中心となる少年トム・ヒルマンがなかなか登場せず、一見失踪事件ではあるが実はいったい何が起こっているのか、そしてその裏にある本当の問題とは何なのか、なかなか明らかにならない。ヒルマン一家の抱える問題も朧げながら見えるものの、それはまったく表面的なものでしかない。それでもアーチャーの調査の過程で、それらの謎少しずつ解き明かされ、それが物語の推進力にもなっている。
そして物語の終盤、アーチャーがようやくトムと出会えてからの展開は圧巻だ。アーチャーとトム、トムの両親たちとのやりとりは事件の真相だけでなく、ヒルマン家の本当の闇を明らかにする。実に残酷な真相ではあるが、それが単にヒルマン家だけの問題ではなく、同時にアメリカに蔓延している病であることも気づかせてくれる。ぶっちゃけマクドナルドお得意のパターンではあるのだが、この流れるような手管が実に見事。そして最後の最後で、もう一つ強烈な印象を残す。
個人的に印象深かったのは、何といってもアーチャーとトムのラストのやりとりだ。トムの行動は拙いながらもその根っこは決して間違っているわけではない。トムの問題を肥大化させたのはやはり親子の関係であり、悪いのは大人だ。それでもトムに理解、納得してもらわなければならない現実もあり、アーチャーはできるかぎり誠実に対応する。この切なさ。そして、それでもトムの心を変えることはできない。
ラストの衝撃も踏まえ、トムがこの後どのような人生を歩むのか、マクドナルドはあえて一切を描いていないが、安っぽいハッピーエンドや希望をあえて残さなかったところにマクドナルドの覚悟が感じられる。
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>どの本を読んでも深い感動と同時に「イヤだこんなの」とも思う(^^;) それでいてイヤミスではないっていう絶妙なバランス感。
まさにそれですね。犯人像が被るような作品もちらほらありますが、中期以降は謎解きのアベレージも無茶苦茶高くて、期待を裏ぎられることがないですね。
ちなみに、ロスマクが早すぎたネオ・ハードボイルドというのではなく、ネオ・ハードボイルドの作家たちが、御三家の中でロスマクの影響を一番受けたのではないかと思います。
ただ、アーチャーは、ネオ・ハードボイルドの探偵のような自分語りは極力しないので、一線を画しているとは思うのですが。