- Date: Sat 02 04 2022
- Category: 海外作家 アルレー(カトリーヌ)
- Community: テーマ "推理小説・ミステリー" ジャンル "本・雑誌"
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カトリーヌ・アルレー『狼の時刻』(東京創元社)
本日の読了本はカトリーヌ・アルレーの『狼の時刻(とき)』。日本びいきの著者が東京創元社の依頼で書き下ろした作品で、本国に先駆けて刊行されたらしい。
こんな話。子供の頃からぐれていたロランは、その経験を活かして、殺人とスキャンダルしか扱わない低俗雑誌でライターとして活躍していた。しかも若くして自分の美貌をエサに女性から貢がせることまで覚え、今はビアンカという二十歳も年上の女性に取り入っていた。
ある日、ロランがビアンカの愛犬(テリヤ)を散歩させていると、やはりそばで散歩をしていた会社社長ピエールの愛犬(シェパード)に噛み殺されてしまう。止める暇がなかったと釈明するロランだが、ビアンカはまったく聞く耳を持たない。ロランは家を追い出され、頭にきた彼はピエールを銃殺してしまう。
ここで困ったのはピエールの妻ポリーヌと、ピエールの部下アランだった。二人は不倫関係にあり、かねてからピエール殺害を目論んでいたのだ。しかし、いま警察に調べられると動機はすぐにバレるし、アリバイもない。自分たちもピエールに死んでもらいたかったが、決して今ではなかったのだ……。

もうドロドロ。さすがアルレーである。
アルレーといえば基本的にはサスペンス作家で、とりわけ悪女ものの書き手として知られている。とはいえSFもどきのけっこう変な話も書いていたりもするので、本作はどう出るのかと思っていたら、直球ど真ん中のイヤミスであった。五人ほどの登場人物が揃いも揃ってダメな人間ばかりで、その全員が破滅するまでをネチネチと描く。
きっかけはペットのいざこざである。これがなかなか金銭で割り切れない面倒なトラブルだから、それが事をややこしくする。しかも先述のとおり全員が倫理観の薄い人物ばかり。あえてやっているわけではないが、やることなすこと裏目に出て、事態を見事に泥沼化させ、ついには殺人に発展させてしまう。
特に謎解きというものもなく、読者はひたすら愚か者たちの転落する様を味わえばよい。ただ、イヤミス系の話であっても、アルレーの描写の巧さなのだろう、変に感情移入することなくさらっと読める。登場人物の愚かさと悪さと悲惨さを外から客観的に眺めることができるわけで、どろどろではあっても意外に口当たりは悪くないのだ(とはいえ人によってかなり好き嫌いは出るだろうが)。
また、フランスミステリにおけるサスペンスというと、どうしても心理的なタイプを思い浮かべるが、本作に関してはむしろノワールの味わいが強い。とりわけ主人公格のロランの破滅的キャラクターは実に興味深く、こういう輩と関係を持つこと自体が不運というか自業自得というか、ちょっとジム・トンプスンの諸作品を連想した。
なお本作は1990年、アルレーが六十六歳のときの作品で、これ以後に作品は発表されていないが、現在の年齢や病気なども考慮すると、本作がおそらく最後の作品になる可能性は高い。
こんな話。子供の頃からぐれていたロランは、その経験を活かして、殺人とスキャンダルしか扱わない低俗雑誌でライターとして活躍していた。しかも若くして自分の美貌をエサに女性から貢がせることまで覚え、今はビアンカという二十歳も年上の女性に取り入っていた。
ある日、ロランがビアンカの愛犬(テリヤ)を散歩させていると、やはりそばで散歩をしていた会社社長ピエールの愛犬(シェパード)に噛み殺されてしまう。止める暇がなかったと釈明するロランだが、ビアンカはまったく聞く耳を持たない。ロランは家を追い出され、頭にきた彼はピエールを銃殺してしまう。
ここで困ったのはピエールの妻ポリーヌと、ピエールの部下アランだった。二人は不倫関係にあり、かねてからピエール殺害を目論んでいたのだ。しかし、いま警察に調べられると動機はすぐにバレるし、アリバイもない。自分たちもピエールに死んでもらいたかったが、決して今ではなかったのだ……。

もうドロドロ。さすがアルレーである。
アルレーといえば基本的にはサスペンス作家で、とりわけ悪女ものの書き手として知られている。とはいえSFもどきのけっこう変な話も書いていたりもするので、本作はどう出るのかと思っていたら、直球ど真ん中のイヤミスであった。五人ほどの登場人物が揃いも揃ってダメな人間ばかりで、その全員が破滅するまでをネチネチと描く。
きっかけはペットのいざこざである。これがなかなか金銭で割り切れない面倒なトラブルだから、それが事をややこしくする。しかも先述のとおり全員が倫理観の薄い人物ばかり。あえてやっているわけではないが、やることなすこと裏目に出て、事態を見事に泥沼化させ、ついには殺人に発展させてしまう。
特に謎解きというものもなく、読者はひたすら愚か者たちの転落する様を味わえばよい。ただ、イヤミス系の話であっても、アルレーの描写の巧さなのだろう、変に感情移入することなくさらっと読める。登場人物の愚かさと悪さと悲惨さを外から客観的に眺めることができるわけで、どろどろではあっても意外に口当たりは悪くないのだ(とはいえ人によってかなり好き嫌いは出るだろうが)。
また、フランスミステリにおけるサスペンスというと、どうしても心理的なタイプを思い浮かべるが、本作に関してはむしろノワールの味わいが強い。とりわけ主人公格のロランの破滅的キャラクターは実に興味深く、こういう輩と関係を持つこと自体が不運というか自業自得というか、ちょっとジム・トンプスンの諸作品を連想した。
なお本作は1990年、アルレーが六十六歳のときの作品で、これ以後に作品は発表されていないが、現在の年齢や病気なども考慮すると、本作がおそらく最後の作品になる可能性は高い。
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早速いろいろ調べていただいたようでありがとうございます。アルレーの仏語版ウィキ、私も見てみましたが(機械翻訳なのでやや怪しいですが)、どうやら「En 5 sets」と『狼の時刻』は同一作品のようですね。国書から出ている『世界ミステリ作家事典』でも完全に別作品としていたので、これは今後の書誌情報等で修正が必要ですね。
あと、仏語版ウィキの記事でちょっと驚いたのが、アルレーの死亡を出版社が告知していたのにもかかわらず、実はアルツハイマーを患って今もご存命だということでした(真偽の程は確かめようもありませんが)。
執筆ができなくなれば、どうしても忘れられた存在になるのは仕方ないのでしょうが、ミステリ史に残る作家だけに残念ですね。