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探偵小説三昧

日々,探偵小説を読みまくり、その感想を書き散らかすブログ


カーター・ディクスン『騎士の盃』(ハヤカワ文庫)

 カーター・ディクスンの『騎士の盃』を読む。H・M卿(ヘンリー・メリヴェール卿)もの最後の作品である。まずはストーリーから。

 マスターズ警部の元へ相談にきたブレイス卿夫人のヴァージニア。彼女は夫のトムとテルフォード館で暮らしており、家には十七世紀に作られた「騎士の盃」が代々伝わっていた。普段は銀行の金庫に保管されているが、その日は展覧会の都合で、テルフォード館の一室に安置されていたという。ところが、厳重に戸締りがされ、しかも夫のトムが夜通し見張っていたその部屋で、盃は何者かによって動かされていた。どうやらトムは薬を盛られたようだが、それにしても盃はなぜ動かされただけで住んだのか。
 マスターズはブレイス夫妻の近所にちょうどH・M卿が住んでいたことから解決を依頼する。ところがH・M卿は歌の練習に忙しく、仕方なくマスターズが自身で夜通し盃の見張りをすることになったのだが……。

 騎士の盃

 H・M卿最後の作品なので何か特別な趣向があるかと思ったが、そういうものは特にないようだ。そもそも著者も別にこれが「最後のH・M卿作品」などと謳っているわけではない。とはいえ本作でのH・M卿も齢八十を越え、ほぼ引退しているような雰囲気はあるので、多少は意識していたかもしれないが、それでもたまたま結果として本作が最後になったということだろう。

 で、そういうフィルターを外してみると、本作の出来としては可もなく不可もなく、いや、可もあり不可もありといったところか。
 「盃がなぜ盗まれなかったのか」という謎の設定は面白い。もちろん「犯人はどうやって盃を動かせたのか」というそもそもの密室ネタはあるのだが、この「犯罪を犯さなかったのはなぜか」という逆動機とも言えるアプローチ。これが明らかになることで、動機や犯人もまた明らかになるのではないかという膨らみがあり、密室以上に魅力的なのである。密室ものとしてはまずまずだろうが、ミステリの可能性を広げるという意味ではなかなか面白い試みだったろう。

 一方で不可の部分。これは個人的な好みもかなり大きいのだが、本筋に関わらないドタバタ・ギャグの部分が多すぎて、正直読み進めるのに苦労した。なんせ本作自体がかなりのボリューム。そこへ来て味付け程度ならともかく本作ではむしろこちらがメインなのではと思うぐらい延々と続くわけである。実際、百ページぐらい読んでもほとんどストーリーの進行はないぐらい。これに耐えられるのは、真のカーファンだけと言えるだろう(苦笑)。

 ということで可と不可の部分いろいろあれども、単なるミステリとしては中の下といったところか。ただしカーのファンであれば、もちろん必読レベルである。

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Author:sugata
ミステリならなんでも好物。特に翻訳ミステリと国内外問わずクラシック全般。
四半世紀勤めていた書籍・WEB等の制作会社を辞め、2021年よりフリーランスの編集者&ライターとしてぼちぼち活動中。

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