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探偵小説三昧

天気がいいから今日は探偵小説でも読もうーーある中年編集者が日々探偵小説を読みまくり、その感想を書き散らかすページ。

 

E・C・R・ロラック『殺しのディナーにご招待』(論創海外ミステリ)

 本日の読了本はE・C・R・ロラックの『殺しのディナーにご招待』。まずはストーリーから。

 ロンドンのフランス料理店〈ル・ジャルダン・デ。ゾリーヴ〉に集まった八人の男女。彼らに送られた招待状によると、ハイクラスの紀行作家の親睦団体〈マルコ・ポーロ・クラブ〉での入会が認められたという。しかし、それは主宰を騙ったトローネという男による悪戯であることがわかり、集まった者たちは仕方なくディナーだけを楽しむことにする。
 ディナー終了後、いろいろあったにせよ無事にディナーが終了したことに安堵する店主のアンリ。ところが店内を巡回しているとき、配膳代の下に転がっているトローネの死体を発見する……。

 殺しのディナーにご招待

 ロラックはこれまで六作ほど読んでいる。いずれもそれほど悪くはないのだが、突出したところもないのが正直なところ。本格ミステリとしての結構や要素は十分に備えているし、人物描写なども丁寧で巧いと思うのだが、如何せん、これだという決定力に欠けるのが惜しい。

 そこで本作だが、まあ、導入や設定は悪くない。
 面識はないけれども互いに名前ぐらいは知っている業界人が八名。彼らが続々とディナー会場のレストランに現れる場面は、クリスティの代表作を例に挙げるまでもなく、ミステリではお馴染みのオープニング。そこに被害者と犯人を含む重要人物全員が登場していることはお約束であり、いやが上にも期待感を膨らませてくれる。
 しかもその直後に肝心の主催者が殺されており、掴みは十分といえるだろう。

 だが、その後がちょっといただけない。マクドナルド警部の捜査とは別に、ディナー参加者たちも独自に調査や推理する展開になるのだが、ストーリーにいまひとつキレがない。せっかくディナー参加者を八名も揃えておきながら、肝になる人物はごく少数に限られ、せっかくのオープニングも尻すぼみになっている感じだ。
 人物描写にしても同様だろう。肝になる数名以外は、いかにも頭数合わせというレベルで、ミステリの質的向上にはあまり貢献していない。いつもなら人間描写だけは期待を裏切らないロラックだけに、本作のイージーな書き分けはちょっと残念だった。

 まとめ。導入や設定だけでなく、犯行動機の背景だったり真相もそれなりに面白かったので、惜しい作品ではある。特に中盤以降のストーリーの膨らみや描写にもう少し工夫していれば、もっと印象深い作品になった気はする。決定力、例えば強烈なトリックや度肝を抜く真犯人などは端から期待していないので、せめて完成度は高めてほしかったというのが率直なところだ。

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プロフィール

sugata

Author:sugata
ミステリならなんでも好物。特に翻訳ミステリと国内外問わずクラシック全般。
四半世紀勤めていた書籍・WEB等の制作会社を辞め、2021年よりフリーランスの編集者&ライターとしてぼちぼち活動中。

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