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探偵小説三昧

天気がいいから今日は探偵小説でも読もうーーある中年編集者が日々探偵小説を読みまくり、その感想を書き散らかすページ。

 

オール讀物/編『西村京太郎の推理世界』(文藝春秋)

 先月、三月三日に西村京太郎氏が亡くなった。享年九十一。直前まで執筆を続けられたそうだが、トラベルミステリを中心に生涯647作という信じられない数の著作を残した。そのためミステリ的には軽く見られたところもあったが、ただ、多作家であるためには、それだけの需要がまず必要なわけで、そういう意味では奇跡的といっても差し支えないだろう。
 しかも単なる多作のベストセラー作家というだけではなく、デビューからから七十年代にかけては傑作も多く、改めてその凄さが注目されている。乱歩や正史、清張らとは方向性は違うけれども、西村京太郎もまた日本ミステリ史に燦然と輝く作家の一人なのだ。

 西村京太郎の推理世界

 とまあ偉そうに紹介はしてみたものの、そういう管理人は恥ずかしながら長篇は名探偵シリーズぐらいしか読んだことがない。昭和のミステリ作家をぼちぼちと読み進めていることもあって、初期作品は買い集めてはいるものの、まだ順番待ちという状態である。
 そんなところに登場したのが、〈オール讀物〉編集部による『西村京太郎の推理世界』。西村京太郎の軌跡を辿った一冊である。今後の西村作品を楽しむためにちょうど良いのはもちろん、もともとガイドブック好きな管理人としては買わないわけにはいかない。

 ただ、心配な点もあった。訃報から本書の刊行までがあまりに早く、スピード重視で作った雑な本である可能性があったからだ。しかしながら、ひととおり目を通し、この短期間でよくぞここまでまとめたなと感心してしまった。とりあえず目次を載せておこう。

追悼 レジェンドに贈る感謝とお別れの言葉
 赤川次郎「0.1ミリの違い」
 東野圭吾「小説家として」
特別対談 綾辻行人×有栖川有栖「僕らの愛する西村作品ベスト5」
オール讀物推理小説新人賞受賞作全文掲載「歪んだ朝」
 受賞のことば 「嬉しさでいっぱい」西村京太郎
 第2回オール讀物推理小説新人賞決定発表 選評 有馬頼義/高木彬光/水上勉/松本清張
随想 ベストセラー作家前夜
 「推理小説新人賞」の頃
 「瞼の師」長谷川伸
オール讀物傑作選
 「美談崩れ」 1965年9月号「見舞の人」 1967年3月号
 「夜行列車『日本海』の謎」1982年12月号
 「事件の裏で」 1983年7月号
座談会
 「オール讀物」と推理小説の90年 北村薫×北上次郎×戸川安宣
作家同士で語り合った四方山秘話
 山村美紗「事実は推理小説より奇なり」
 阿川佐和子「唯一無二の同志兼恋人」
 佐野洋×三好徹 司会・大沢在昌「ミステリー界の巨人たち」
 赤川次郎「ミステリーを書き続ける幸せ」
トラベルミステリーと歩み続けて
 宮脇俊三「ミステリーはローカル線に乗って」
 インタビュー 「鉄道と小説を愛して」「家の履歴書」
 絶筆 「SL『やまぐち』号殺人事件」の日々
生涯647冊全著作リスト

 もちろん新規の原稿などは少なく、過去の短篇やエッセイ、対談など、再録中心ではあるのだが、それにしても網羅的にポイントを押さえている。作家デビューの頃、トラベルミステリ創作の話、山村美紗との思い出など、ファンであれば気になるネタも多いのではないか。短篇としてはデビュー作の「歪んだ朝」をはじめ、オール読物からの傑作選ということで計五作を収録。
 新規の記事としては赤川次郎、東野圭吾による追悼文、綾辻行人×有栖川有栖による西村作品のベスト5を選ぶ対談があり、とりわけ西村入門者には対談が役に立つ。
 そして記事ではなく資料になるが、巻末の「生涯647冊全著作リスト」がこれまた非常に便利でありがたい。

 ということで西村京太郎のよき読者でなくとも、ミステリに少し深く付き合いたいという人であればこれは買い。管理人も本書を参考に少しずつ西村作品を読んで供養としたい。


Comments
 
再録は多いのですが、多角的に編まれていて、基本に忠実な良いガイドブックになっています。製本や紙質も抑えることで価格も1000円まで落としていますし、これはお買い得でしょう。

> 自分も先日供養がてら『寝台特急殺人事件』を読みました(面白かった)が、晩年の作品も早めに一つ読んでみようと思います。

私は初期の傑作から読んでみようと思っていますが、晩年の作品は確かにどのようなものか気になりますね。まったく変わっていないのか、やはり質は落ちてしまうのか。
どなたか年代別に作風や特徴の変化をまとめてくれると面白そうです。
 これは良さそう。
 管理人様の御紹介文を読んで、購入しようと思いました。何より全作品リストに惹かれます。
 横溝正史や土屋隆夫等は、晩年まで作品を執筆していたことが評価されているイメージがありますが、この方は逆にそれが低く言われているように感じます(そして恐らく、どちらもそれ程読まれてはいない)。
 自分も先日供養がてら『寝台特急殺人事件』を読みました(面白かった)が、晩年の作品も早めに一つ読んでみようと思います。

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プロフィール

sugata

Author:sugata
ミステリならなんでも好物。特に翻訳ミステリと国内外問わずクラシック全般。
四半世紀勤めていた書籍・WEB等の制作会社を辞め、2021年よりフリーランスの編集者&ライターとしてぼちぼち活動中。

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