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探偵小説三昧

天気がいいから今日は探偵小説でも読もうーーある中年編集者が日々探偵小説を読みまくり、その感想を書き散らかすページ。

 

マイクル・コナリー『警告(下)』(講談社文庫)

 マイクル・コナリーの『警告』下巻を読了。

 今は消費者問題を中心に扱うニュースサイトで働くジャック・マカヴォイ。過去に関係を持った女性がデジタルストーカーの犠牲者となり、自らも容疑者となったことから調査を開始。するとDNAビジネスのセキュリティ問題が発掘、そればかりかデータを悪用した連続殺人犯の存在が浮かび上がる。マカヴォイは会社の仲間や元FBI捜査官だったレイチェル・ウォリングと共に調査を続けるが……。

 警告(下)

 DNAビジネスといった最新の題材に、デジタル・ストーキングや情報漏洩といった現代ならではの社会問題を絡めるなど、まずは目のつけどころがよい。しかし社会問題を全面的に押し出すのではなく、最終的な問題は結局、人の闇にあるという展開に持っていくのが、いかにもコナリーらしいところだ。
 好き嫌いもあるだろうが、コナリーの小説はやはりギリギリ個の犯罪の範囲でとどめてくれた方がよい。全体を覆う程よい緊張感もそのおかげだろう。

 愛情や友情、利益と使命感の狭間で揺れ動く登場人物たちのドラマも悪くない。なんだかんだでエゴが強く、それでいてセンチメンタルなマカヴォイが最も人間的な弱さを感じるのだけれど、まあ、そういう主人公だからこそストーリーが転がる面はあるので、これもコナリーのテクニックであろう。
 だが、ボッシュのような突き抜けたところに欠けるため、いまひとつ感情移入しにくいのが惜しい。こちらも好みにはなるが、正直、本作ではレイチェルやエミリー、マイロンといった協力者の方がよほど共感できるキャラクターである。
 人物で言えば、犯人についても動機の部分などもう少し掘り下げてほしかったところだ。

 ということで全体としては面白く読めたが、さっぱりしていてちょっと食い足りないのも確か。
 コナリーの作品でなければ十分合格点だとは思うが、どうしてもハードルを上げてしまうよなぁ。

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プロフィール

sugata

Author:sugata
ミステリならなんでも好物。特に翻訳ミステリと国内外問わずクラシック全般。
四半世紀勤めていた書籍・WEB等の制作会社を辞め、2021年よりフリーランスの編集者&ライターとしてぼちぼち活動中。

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