- Date: Thu 07 07 2022
- Category: 海外作家 マン(アントニー)
- Community: テーマ "推理小説・ミステリー" ジャンル "本・雑誌"
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アントニー・マン『フランクを始末するには』(創元推理文庫)
アントニー・マンの『フランクを始末するには』を読む。十年ほど前に刊行されたものだが、昨年も復刊されて少し話題になった一冊。「奇妙な味」に分類される短篇集である。
まずは収録作。
Milo and I「マイロとおれ」
Green「緑」
The Oedipus Variation「エディプス・コンプレックスの変種」
Pigs「豚」
Shopping「買いもの」
Esther Gordon Framlingham「エスター・ゴードン・フラムリンガム」
Things Are All Right, Now「万事順調(いまのところは)」
Taking Care of Frank「フランクを始末するには」
The Deal「契約」
Billy, Cutter and the Cadillac「ビリーとカッターとキャデラック」
Preston’s Move「プレストンの戦法」
Gunned Down「凶弾に倒れて」

「奇妙な味」と書いたけれども、実はそのテイストは作品ごとにけっこう異なる。シュールな作品もあれば実験小説的なもの、ブラックユーモアなどさまざまだ。展開自体はヘンテコだが、終わってみれば意外に訓話的な印象のものもあったり、その逆に暗いエンディングを迎えるものもあったりと、なんとも掴みどころがない。
語り口もクセが強い。あえてユーモラスにしたり、深刻にしたり、そういう先入観を植え付けるような雰囲気は作らず、むしろ極力テイストを排したような淡々とした描写である。それがストーリーの奇妙さを鮮明にし、その結果として読者に先を読ませず、絶妙な不安感を抱かせてくれるのだ。
以下、作品ごとに簡単に感想を。
「マイロとおれ」は赤ん坊と組んで捜査を行う刑事の話で、その突拍子もない設定にはなんの説明もなく、ただただ二人の活躍を描く。警察小説とりわけバディモノのパロディにも思えるが、単なるパロディとは異なる不条理さが感じられて面白い。
「緑」は管理社会を描くディストピア的な作品だが、そのスケール感をご近所さまに限定することで、独特な味わいを持たせている。
「エディプス・コンプレックスの変種」はチェスを題材にした作品で、父親を虐待することでチェスがメキメキ上達するという、これまたいっさい説明のない謎設定の作品。カタストロフィが待っていると思わせつつ……という捻りが絶妙。
「豚」は、豚をペットにする大金持ち夫婦とその友人夫婦の物語。比較的わかりやすいブラックユーモアだが、これも登場人物たちのやりとりを若干不安定にすることで、似たような作品とは一線を画している感じだ。オチは予想できるが、そこに至るまでの夫婦たちの会話に味がある。
「買いもの」は買い物リストだけで構成された実験的小説。確かに面白い試みだが、筒井康隆あたりを多く読んでいる人ならそこまでの衝撃はない。高校生などの学習テキストに良いかも。
「エスター・ゴードン・フラムリンガム」は出版ビジネスの暗黒面を茶化した作品で、捻りは弱いが普通に面白い。
「万事順調(いまのところは)」は純文学の味。主人公の行動や心理を考えながら読むのがおすすめ。
表題作の「フランクを始末するには」は正統派の奇妙な味。文句なしの名優フランクを始末するよう依頼された殺し屋だが……。スラップスティックの味わいもあり、わかりやすい毒性なので広くおすすめできる。
「契約」も面白い。最初はなんのことやらわからないが、どうやら子供を殺害され、マスコミに取材を依頼されている男の話だとわかってくる。頑としてインタビューなど受け付けようとしない男に対し、友人らが説得にあたる様を描く。主人公と友人たちの心理のずれが読みどころ。
「ビリーとカッターとキャデラック」も正統派の奇妙な味(だから正統派ってなんだよ)。スタンリー・エリンとかロアルド・ダールが書いていそうで、後味の悪さがお見事。
「プレストンの戦法」はチェスの絶対的攻略法を生み出した男の話。これ、短編でもいいのだけれど、長篇にしても相当面白くなったのではないか。
「凶弾に倒れて」は、父を殺した男に復讐する少年の話。男は三年で出所し、マスコミの寵児となるが……。ラストがこの作家ならではという感じもするが、ラストまでの流れがそれを効果的にしている。
まとめ。強力なオチで読ませる作品は少ないものの、常識の裏をいくようなストーリー全体の捻りと独特の語り口で読ませる作品集である。これはおすすめ。
まずは収録作。
Milo and I「マイロとおれ」
Green「緑」
The Oedipus Variation「エディプス・コンプレックスの変種」
Pigs「豚」
Shopping「買いもの」
Esther Gordon Framlingham「エスター・ゴードン・フラムリンガム」
Things Are All Right, Now「万事順調(いまのところは)」
Taking Care of Frank「フランクを始末するには」
The Deal「契約」
Billy, Cutter and the Cadillac「ビリーとカッターとキャデラック」
Preston’s Move「プレストンの戦法」
Gunned Down「凶弾に倒れて」

「奇妙な味」と書いたけれども、実はそのテイストは作品ごとにけっこう異なる。シュールな作品もあれば実験小説的なもの、ブラックユーモアなどさまざまだ。展開自体はヘンテコだが、終わってみれば意外に訓話的な印象のものもあったり、その逆に暗いエンディングを迎えるものもあったりと、なんとも掴みどころがない。
語り口もクセが強い。あえてユーモラスにしたり、深刻にしたり、そういう先入観を植え付けるような雰囲気は作らず、むしろ極力テイストを排したような淡々とした描写である。それがストーリーの奇妙さを鮮明にし、その結果として読者に先を読ませず、絶妙な不安感を抱かせてくれるのだ。
以下、作品ごとに簡単に感想を。
「マイロとおれ」は赤ん坊と組んで捜査を行う刑事の話で、その突拍子もない設定にはなんの説明もなく、ただただ二人の活躍を描く。警察小説とりわけバディモノのパロディにも思えるが、単なるパロディとは異なる不条理さが感じられて面白い。
「緑」は管理社会を描くディストピア的な作品だが、そのスケール感をご近所さまに限定することで、独特な味わいを持たせている。
「エディプス・コンプレックスの変種」はチェスを題材にした作品で、父親を虐待することでチェスがメキメキ上達するという、これまたいっさい説明のない謎設定の作品。カタストロフィが待っていると思わせつつ……という捻りが絶妙。
「豚」は、豚をペットにする大金持ち夫婦とその友人夫婦の物語。比較的わかりやすいブラックユーモアだが、これも登場人物たちのやりとりを若干不安定にすることで、似たような作品とは一線を画している感じだ。オチは予想できるが、そこに至るまでの夫婦たちの会話に味がある。
「買いもの」は買い物リストだけで構成された実験的小説。確かに面白い試みだが、筒井康隆あたりを多く読んでいる人ならそこまでの衝撃はない。高校生などの学習テキストに良いかも。
「エスター・ゴードン・フラムリンガム」は出版ビジネスの暗黒面を茶化した作品で、捻りは弱いが普通に面白い。
「万事順調(いまのところは)」は純文学の味。主人公の行動や心理を考えながら読むのがおすすめ。
表題作の「フランクを始末するには」は正統派の奇妙な味。文句なしの名優フランクを始末するよう依頼された殺し屋だが……。スラップスティックの味わいもあり、わかりやすい毒性なので広くおすすめできる。
「契約」も面白い。最初はなんのことやらわからないが、どうやら子供を殺害され、マスコミに取材を依頼されている男の話だとわかってくる。頑としてインタビューなど受け付けようとしない男に対し、友人らが説得にあたる様を描く。主人公と友人たちの心理のずれが読みどころ。
「ビリーとカッターとキャデラック」も正統派の奇妙な味(だから正統派ってなんだよ)。スタンリー・エリンとかロアルド・ダールが書いていそうで、後味の悪さがお見事。
「プレストンの戦法」はチェスの絶対的攻略法を生み出した男の話。これ、短編でもいいのだけれど、長篇にしても相当面白くなったのではないか。
「凶弾に倒れて」は、父を殺した男に復讐する少年の話。男は三年で出所し、マスコミの寵児となるが……。ラストがこの作家ならではという感じもするが、ラストまでの流れがそれを効果的にしている。
まとめ。強力なオチで読ませる作品は少ないものの、常識の裏をいくようなストーリー全体の捻りと独特の語り口で読ませる作品集である。これはおすすめ。