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探偵小説三昧

日々,探偵小説を読みまくり、その感想を書き散らかすブログ


藤雪夫『藤雪夫探偵小説選 I』(論創ミステリ叢書)

 『藤雪夫探偵小説選 I』を読む。藤桂子との親娘コンビによる『獅子座』『黒水仙』で知られる著者だが、これは単独で書いた作品をまとめたもの。
 そもそも藤雪夫は1950年代に活躍した作家だ。1950年に雑誌『宝石』のコンクールで二等に入った「渦潮」でデビューする。本格を志向していたこともあり、鮎川哲也らと鎬を削ったようだが、コンテストでトップを取れなかったり版元と揉めたりなどもあってか、当時はなかなか単行本デビューが叶わなかった。そうこうしているうちに1959年には電気技師として就職。その後はそちらが多忙を極め、およそ二十五年近く創作から離れていた。ようやく現役を退いて創作を再開し、1984年に親娘コンビによる『獅子座』を発表したものの、次作『黒水仙』の執筆途中で逝去。その後、2015年になって、ついに論創ミステリ叢書から全二巻の単独著書がまとめられた。

 藤雪夫探偵小説選I

「渦潮」
「指紋」
「辰砂」
「黒水仙」
「夕焼けと白いカクテル」
「アリバイ」

 収録作は以上。
 注目すべきはやはり著者のデビュー作であり、長篇『黒水仙』の原型となった作品「渦潮」だろう。もちろん設定やストーリーなど共通する部分は多く、銀行強盗殺人という発端も同様。ただし長篇『黒水仙』では後半にまったく新しい展開が発生して、むしろそちらに比重が置かれている。
 そもそも長さが違うので、要素自体が増えるのは当たり前なんだけれど、実はテイストもけっこう異なるのが面白い。「渦潮」は徹底した本格志向でアリバイトリックがメインの作品。対して長篇『黒水仙』では、プラスされた後半の真相に異常心理といった要素が加えられ、このインパクトがとにかく強かった。
 個人的には長篇に軍配を上げたいのだが、これは決して好みの問題というだけではない。というのも「渦潮」はやはりデビュー作ということもあって、とにかく余裕がないのである。改行もなく情報を詰め込んでいくし、描写も思った以上に濃い目。ラストの一章などは著者としては気合十分なのだが、当時もいろいろ批評されたようで、とにかく構成も文章もキツキツ&やりすぎの感じは否めない。
 とはいえ、この応募作こそが藤雪夫が最初に求めていた方向性であることは確かだし、トリックも含めて決してつまらない作品ではない。

 ややこしいので、もう一つの中篇「黒水仙」を次に紹介しよう。これは「渦潮」を原型とする長篇『黒水仙』とはまったくの別物。中篇「黒水仙」と共通するイメージが長篇『黒水仙』にあったのかもしれないが、さすがにこれは混乱するだけなので、長篇を同じ題にするのはやめてほしかったところだ
 それはともかくとして、内容的には藤雪夫版『幻の女』というイメージで興味深い。ただ構成や発端が酷似しているため、発表当時はいろいろ酷評されたらしい。しかしながら犯人の設定は異なるし、本家を凌ぐような面白さもあり、個人的には決して嫌いではない。ただ、かなり粗が多いことも事実で、きちんと欠点を潰していけば、かなり面白い作品になったのではないか。「渦潮」もそうだが基本的に詰め込みすぎるクセがあり、そのくせチェックが甘いんだよなぁ。何とももったいない一作。

 その他の短篇はやや低調。「指紋」、「辰砂」、「夕焼けと白いカクテル」の三短篇はそれぞれキモになるトリックや仕掛けが弱く、肝心なところで粗さが目立つ。完成度に関する線引きがやや甘い、そんな印象を受けてしまった。窯焼きなどの題材は面白いし、雰囲気は悪くないのだけれど。
 そんな中で「アリバイ」は(これもツッコミどころはあるけれど)ラストの見せ場も面白いし、なかなかの力作。

 ということで長所短所取り混ぜて、いろいろと楽しめる一冊だった。
 1950年後半には清張や仁木悦子、鮎川哲也、土屋隆夫といった面々が独自の世界を広げていった時期でもあり、著者が就職せずにミステリを描き続けていたら果たしてどのように成長し、どんな作品を残していったのか、少々気になるところではある。
 さて、なるべくなら間をおかず、『藤雪夫探偵小説選 II』にかかりたいものだ。

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Author:sugata
ミステリならなんでも好物。特に翻訳ミステリと国内外問わずクラシック全般。
四半世紀勤めていた書籍・WEB等の制作会社を辞め、2021年よりフリーランスの編集者&ライターとしてぼちぼち活動中。

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