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探偵小説三昧

天気がいいから今日は探偵小説でも読もうーーある中年編集者が日々探偵小説を読みまくり、その感想を書き散らかすページ。

 

ジョルジュ・シムノン『メグレと死体刑事』(読売新聞社)

 ジョルジュ・シムノンの『メグレと死体刑事』を読む。なにやら奇妙なタイトルだが、死体刑事とは、メグレの元同僚だった刑事のあだ名である。カーヴルという名前と「死体」を意味するカダーヴルの語呂合わせに加え、性格が陰気なことから名付けられたものらしい。

 こんな話。メグレは知り合いの予審判事に呼び出され、田舎町で起こった事件の調査を個人的に依頼される。鉄道事故で死んだ被害者が実は殺害されており、その犯人が判事の義弟だと噂されているのだという。メグレは単身、現地へ出向いたが、田舎町ではメグレの神通力も知名度もなかなか通じず、いまひとつ捜査は進まない。おまけにメグレの元同僚だった「死体刑事」がなぜか街を彷徨き、メグレの捜査を妨害しているようにも見えた……。

 メグレと死体刑事

 表面にはなかなか現れないが、田舎町ならではの対立、不正、自堕落な生活、無気力などが蔓延り、それがあまりに自然なため、メグレも知らず知らずその中に取り込まれそうになる。その度に内心で恥ずかしい思いをしたり、イライラを爆発させそうになるメグレだが、そんな雰囲気に飲み込まれているメグレの心情が本作の読みどころと言えるだろう。
 この村におけるメグレの存在は異質であり、異邦人的なのだが、メグレもまた村人に対し、ある種の評価を下しているのがミソ。長篇としては短い作品ながら、主要人物はもちろん脇役ですらどこか癖のある人物ばかり。よくもこれだけ書き分けられるものだと感心するしかない。

 事件そのものはシンプルである。シンプルすぎてもう一捻りあるかと思うほどだが、メグレものではこんなものだろう。ただ、真相はこれでも良いのだが、メグレの捜査を妨害していると思われる「死体刑事」の扱いはやや物足りない。若い頃はメグレのライバル的存在であり、本作でも大きなアクセントになっているはずなのに、思ったほどの活躍(?)は見られない。死体刑事の行動やメグレとの対決をもっと掘り下げれば、本作はさらに面白くなっていただろう。そこは素直に残念なところだ。

 とはいえ全体でみれば相変わらず味のあるメグレものの一冊。解説ではメグレもののベスト5という評価だが、さすがにそこまではいかないにせよ、これは悪くない。
 なお、ラストでサラッと描かれる後日談はけっこうインパクトがある。後味は悪いけれど(苦笑)、こういう皮肉な一文を入れ込むのはさすがシムノンである。

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プロフィール

sugata

Author:sugata
ミステリならなんでも好物。特に翻訳ミステリと国内外問わずクラシック全般。
四半世紀勤めていた書籍・WEB等の制作会社を辞め、2021年よりフリーランスの編集者&ライターとしてぼちぼち活動中。

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