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探偵小説三昧

天気がいいから今日は探偵小説でも読もうーーある中年編集者が日々探偵小説を読みまくり、その感想を書き散らかすページ。

 

ロス・マクドナルド『ブラック・マネー』(ハヤカワ文庫)

 ロス・マクドナルドの『ブラック・マネー』を読む。リュウ・アーチャーものの長編としては十三作目に当たる。

 こんな話。ロサンゼルス郡の郡境にある会員制リゾートクラブで、銀行理事の息子であるピーター・ジェイミスンから仕事の依頼を受けた私立探偵リュウ・アーチャー。
 ピーターの話によると、婚約者ジニー・ファブロンが婚約を破棄し、フランス人の貴族と自称するマーテルという男の元へ去ってしまったという。ピーターはマーテルが犯罪者に違いないと主張し、マーテルの素性を明らかにしてほしいと依頼する。マーテルの素性がはっきりすれば、ジニーは自分の元に帰ってくるという考えだった。
 しかし調査を始めたアーチャーは、ジニーの父がかつて不審なし死を遂げたことなどをはじめ、事件の背景には予想以上に複雑な事情があることを知る…‥…。

 ブラック・マネー

 『運命』あたりから独自の作風を確立してゆくロス・マクドナルドは、次々と傑作を書くようになり、遂にはハードボイルドの一つの頂点ともいえる『さむけ』を発表する。その後は円熟期というか、安定したレベルで作品を発表し続けるもマンネリが顕著になり、1970年代に入る頃から衰えを見せ始めたといわれている。
 本書の発表は1966年。『さむけ』から二年後のことであり、まさに円熟期の頃の作品。相変わらず複雑な設定ながら、アーチャーは丹念に関係者の言動を追い、その裏に秘められた動機や心情を解きほぐす。その積み重ねは事件解決への糸口となるだけでなく、アメリカの家庭に隠された闇をあばくことに通じ、読者に感銘を与えるのである。
 本作では、序盤がマーテルという男の単なる素性調査であり、それはそれで読ませるが、やはり本当に面白くなるのは中盤以降、ジニーの父親の過去の不審死が物語の中心になってからである。例によってその事件は単なる点ではなく、線となってさまざまなトラブルにつながっており、これが明らかになっていく終盤の展開はさすがロスマクである。
 ロス・マクドナルドが本格ミステリファンからも評価されるのは、事件の骨格を見事に隠しとおし、ラストの意外性を保つところが大きいと思うのだが、本作もそういう意味では評価に値する一作だ。

 ただ、正直なところ『縞模様の霊柩車』、『さむけ』、『ドルの向こう側』と続いたうえでの『ブラック・マネー』はさすがに分が悪い。
 意外性とか目眩しの部分が実は引っ掛かっているところで、ちょっと本筋のテーマや流れから外れている感じ。そこに落としてしまったかという気持ちの悪さがある(苦笑)。意外性はあるし、別に矛盾しているとか破綻しているとかそういう問題はないのだが、個人的にはなんとも座りの悪い真相に感じられるのである。まあ、他の作品と比べたら、という話なので、水準は十分にクリアしているのだけれど。

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プロフィール

sugata

Author:sugata
ミステリならなんでも好物。特に翻訳ミステリと国内外問わずクラシック全般。
四半世紀勤めていた書籍・WEB等の制作会社を辞め、2021年よりフリーランスの編集者&ライターとしてぼちぼち活動中。

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