- Date: Sun 18 09 2022
- Category: 海外作家 ル・テリエ(エルヴェ)
- Community: テーマ "推理小説・ミステリー" ジャンル "本・雑誌"
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エルヴェ・ル・テリエ『異常 アノマリー』(早川書房)
エルヴェ・ル・テリエの『異常 アノマリー』を読む。ネットで評判は聞いていたものの、詳細に触れた記載はあまり見当たらず、ますます気になっていた一冊である。
※今回、ネタバレには極力注意しておりますが、少しでも前情報を知りたくないという人は以下、自己責任でお読みください。

こんな話。表向きは穏やかながら裏では非常な殺し屋ブレイク、鳴かず飛ばずの小説家ミゲル、シングルマザーの映像編集者リュシー、膵臓癌末期のデイヴィッド、カエル好きの七歳の少女ソフィア、やり手のアフリカ系女性弁護士ジョアンナ、売れないシンガーのスリムボーイなどなど……。それぞれの人生を送るさまざまな人々が、パリからニューヨークへ向かう飛行機に同乗した。飛行機はかつてないほどの乱気流に巻き込まれたが、なんとか事故もなく無事に着陸し、人々はまた普段の生活へ戻ってゆく。
それから三ヶ月後、同じくパリからニューヨークへ向かう飛行機が、やはり乱気流に巻き込まれていた……。
これは凄いぞ。文句なしの傑作である。
ネットで詳しい情報が出ていないのも納得。中盤からのあまりに斜め上をゆくストーリー展開はちょっと想像できないもので、できれば予備知識まったくなしで読んだほうが楽しめる。ただし、その展開を知っていたとしても、本作の価値や面白さは全然損なわれることはない。本作におけるストーリーの面白さは表面的なもので、本質は宗教や哲学等を含んだ知的好奇心を刺激するところにある。
前半は群像劇の趣である。犯罪者からエリートまで、非常に雑多な人たちの人生が描かれる。共通するのは同じ飛行機に乗り合わせたことぐらいで、それ以外に一切の接点はない。読者は各人のさまざまな悩み、生き方にひと通りつき合わされ、この時点ではまあ、よくある話かとも思う。
そして三分の一ぐらいまで進んだ頃、ある事件が起こる。これが驚愕の展開で、詳しいことは書かないけれど、地球レベルの大問題である。アメリカ政府は外国とも情報交換しつつ、対応を模索する。このあたりはパニック映画、SF映画の様相を呈するが、そこを抜けると再び各人の物語が中心になる。中盤の展開は確かにものすごいが、実はそれを受けての後半の各人のドラマこそが肝だ。
飛行機の乗客に突きつけられた宿題は重く大きい。各人がそれぞれに考え抜いて出した答え、そのいずれに共感できるかで、読者の一人ひとりもまた問われているように思う。
最後に付け加えられたショッキングなエピソードも一つの回答であり、人間とはいかなる存在なのか、人生とは何なのか、あらためて登場人物と共に考えさせられる小説である。
なお、ときには観念的な描写もあるけれど、基本的には文章は読みやすく、それこそサスペンス小説のような感じでスイスイ読めるのもいい。
※今回、ネタバレには極力注意しておりますが、少しでも前情報を知りたくないという人は以下、自己責任でお読みください。

こんな話。表向きは穏やかながら裏では非常な殺し屋ブレイク、鳴かず飛ばずの小説家ミゲル、シングルマザーの映像編集者リュシー、膵臓癌末期のデイヴィッド、カエル好きの七歳の少女ソフィア、やり手のアフリカ系女性弁護士ジョアンナ、売れないシンガーのスリムボーイなどなど……。それぞれの人生を送るさまざまな人々が、パリからニューヨークへ向かう飛行機に同乗した。飛行機はかつてないほどの乱気流に巻き込まれたが、なんとか事故もなく無事に着陸し、人々はまた普段の生活へ戻ってゆく。
それから三ヶ月後、同じくパリからニューヨークへ向かう飛行機が、やはり乱気流に巻き込まれていた……。
これは凄いぞ。文句なしの傑作である。
ネットで詳しい情報が出ていないのも納得。中盤からのあまりに斜め上をゆくストーリー展開はちょっと想像できないもので、できれば予備知識まったくなしで読んだほうが楽しめる。ただし、その展開を知っていたとしても、本作の価値や面白さは全然損なわれることはない。本作におけるストーリーの面白さは表面的なもので、本質は宗教や哲学等を含んだ知的好奇心を刺激するところにある。
前半は群像劇の趣である。犯罪者からエリートまで、非常に雑多な人たちの人生が描かれる。共通するのは同じ飛行機に乗り合わせたことぐらいで、それ以外に一切の接点はない。読者は各人のさまざまな悩み、生き方にひと通りつき合わされ、この時点ではまあ、よくある話かとも思う。
そして三分の一ぐらいまで進んだ頃、ある事件が起こる。これが驚愕の展開で、詳しいことは書かないけれど、地球レベルの大問題である。アメリカ政府は外国とも情報交換しつつ、対応を模索する。このあたりはパニック映画、SF映画の様相を呈するが、そこを抜けると再び各人の物語が中心になる。中盤の展開は確かにものすごいが、実はそれを受けての後半の各人のドラマこそが肝だ。
飛行機の乗客に突きつけられた宿題は重く大きい。各人がそれぞれに考え抜いて出した答え、そのいずれに共感できるかで、読者の一人ひとりもまた問われているように思う。
最後に付け加えられたショッキングなエピソードも一つの回答であり、人間とはいかなる存在なのか、人生とは何なのか、あらためて登場人物と共に考えさせられる小説である。
なお、ときには観念的な描写もあるけれど、基本的には文章は読みやすく、それこそサスペンス小説のような感じでスイスイ読めるのもいい。