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探偵小説三昧

日々,探偵小説を読みまくり、その感想を書き散らかすブログ


モーリス・ルヴェル『地獄の門』(白水Uブックス)

 モーリス・ルヴェルの短篇集『地獄の門』を読む。
 ルヴェルは二十世紀初頭に活躍した作家で、恐怖や異常心理を題材にして多くの作品を残し、ポーの系譜を継ぐ作家と呼ばれた。本書は1910年の『地獄の門』を中心に、当時の新聞雑誌等に掲載された作品から精選された三十六作である。

「頭束(かみたば)」
「恐れ」
「狂人」
「金髪の人」
「変わり果てた顔」
「足枷(あしかせ)」
「どちらだ?」
「消えた男」
「壁を背にして」
「仮面」
「妻の肖像画」
「雄鶏は鳴いた」
「鐘楼(しゅろう)番」
「街道にて」
「接吻」
「悪しき導き」
「執刀の権利」
「最後の授業」
「古井戸」
「奇蹟」
「大時計」
「遺恨」
「先生の臨終」
「太陽」
「忘却の淵」
「鴉(からす)」
「鏡」
「嘘」
「誰が呼んでいる?」
「高度九千七百メートル」
「強迫観念」
「ひと勝負やるか?」
「窓」
「伴侶」
「生還者」
「小径(こみち)の先」

 地獄の門

 久しぶりにルヴェルの短篇を呼んだけれど、やはり独特の味わいがあって面白い。ルヴェルも短篇の名手ではあるがいわゆるオチの切れ味で読ませるタイプではなく、そうかといっていわゆる奇妙な味というタイプでもない。どちらかといえばストレートな構成で、死や恐怖、人間の闇に向き合い、感情に訴えるタイプだろう。
 よくこんな悲惨な結末ばかり考えるものだと感心するほどで、それぐらい絶望を書かせると巧い。そういった残酷な話が心をザワザワさせ、心を浄化してくれる感じがしていいのだ。また、作品によってはそれが行きすぎて、かえって変な面白みを感じさせてくれるのも魅力である。
 ミステリの短篇ばかり読んでいると、ついついツイストの効いたキレキレの短篇ばかりを求めがちだが、結局最後はこういうところに落ち着いていくのかもしれない。
 どれも面白く読めるが、強いていえばルヴェルの短篇デビュー作と言われる「髪束」をはじめ、「古井戸」、「奇蹟」、「誰が呼んでいる?」、「高度九千七百メートル」などが強く印象に残った。

 解説によるとルヴェルの作品は当時のフランスで隆盛を極めていた新聞雑誌等に掲載されたきりで、実は多くの作品が単行本未収録のまま残っているという。古い作品で残酷な話も少なくないが、普遍性も高いし、ある種の中毒性もある。個人的には意外に万人向けの作品だと思っているので、できればもう少し幅広く売れてもらって続刊も期待したいところである。

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プロフィール

sugata

Author:sugata
ミステリならなんでも好物。特に翻訳ミステリと国内外問わずクラシック全般。
四半世紀勤めていた書籍・WEB等の制作会社を辞め、2021年よりフリーランスの編集者&ライターとしてぼちぼち活動中。

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